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アンデルセンと少女
第三章
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「そうさせてもらったよ」
「どうせお喋りをしただけだろう」
「わかったんだね」
「わかるさ、しかしこうした店に入っても」
「だから最初から乗りきじゃなかったじゃないか」
「しかしこうした時は誰でもだよ」
 それこそというのだ。
「遊ぶものだが、理性よりもね」
「性欲が勝ってかな」
「そうだよ」
 まさにというのだ。
「人間はそんなものだがね」
「君はそう思っているんだね」
「その通りさ、しかし君は」
「だからこうしたお店は苦手なんだ」
 顔に嫌なものそれ以上に悲しいものを出してだ、アンデルセンは友人に返した。古風な洋館である娼館の中で。
「そしてね」
「女の子ともなんだ」
「どうしてもだよ」
「遊べないんだね」
「何度も言うけれどこうしたことは結婚した相手とだけだよ」
 アンデルセンのこの考えは変わらなかった。
「それでだよ」
「奇麗な女の子だったんだがね」
「けれど僕の妻、ましてや恋人でもないから」
「そう言うんだね」
「僕は母さんや姉さんを見てきたからね」
 不意にだ、アンデルセンは聞かれてもいないのにこうしたことを言ったのだった。
「君のお母さんやお姉さんがかい?」
 友人も彼の今の言葉には怪訝な顔になって問うた。
「どうしたんだい、一体」
「あっ、何でもないよ」
 アンデルセンは友人の問いで失言に気付いた、それで慌てた顔になったがそれでも話を打ち消しにかかった。
「気にしないでくれよ」
「君がそう言うならいいがね」
 この友人は紳士であるので彼の言葉に素直に応えた。
「僕も聞かないよ」
「悪いね」
「悪くないさ、しかし君はどうしてもだね」
「うん、こうした場所では遊べないよ」
「そういうことだね、じゃあ帰ろうか」
 友人はアンデルセンに今度は帰路を勧めた、そしてだった。
 二人で娼館を出て帰った、以後彼も他の友人達もアンデルセンを娼館や他のそうした店に誘うことはしなかった。
 アンデルセンが悲しい失恋を重ね女性とそうした交渉を行うことなく生涯を独身で過ごしたことは知られている、何故そこまで性について潔癖だったのかについては彼のそうしたことでは節操がなかったという母を見そしてその母が自分より先に産んだ異父姉の存在もあったという。
 これは説の一つであり真実はわからない、しかしアンデルセンがその七十年の生涯の中で結局女性の愛を得られず交渉も持てなかったことはおそらく事実である。その中にこうした話がある。これを彼の潔癖や倫理と見るか悲しいものを含んだそうしたものと見るか肉親への複雑な感情や悲しみのみを見るかはその人それぞれだろう。真実はわからない、だがアンデルセンが求めていた愛を手に入れることは遂に出来なかった、このことは彼にとっては残念ながら真実であったようだ。


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