第2章 項羽と劉邦、あと田忠 〜虞兮虞兮、奈若何〜
第4話 祖国は貴様を裏切った!
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秦連合も勢いに乗って駆逐した。
この一帯の安全を確保できたので、援軍を要請することにしたのである。
そこへ咸陽に報告と援軍の要請をしに行っていた司馬欣が血相を変えて戻ってきた。
彼の親族は拘束されており、助命の条件として、一つの命令書を持ってきた。
内容は、俺と章邯の軍司令解任と咸陽への招集だった。
殺す気まんまんじゃねえか。
今後20万の軍勢は司馬欣と董翳が率いることになる。
勝ちすぎたか……。皆が伏し目がちにしながら、淡々と引継ぎを済ませる。
王離の馬鹿なんかは、喜んでいたけどな。
こいつは、勇猛だが、父と同じく血統主義で俺を見下している。
ああ、俺らは都からも味方からも見はなされたんだな。
……すまん、お姫様。俺、もうこの国を救えそうにないわ。
せめて章邯だけでも守らないと。
◆
「もうどうしようもありません。貴女は功績を挙げても殺され、失敗しても殺されます」
顔を真っ青にしながら、震える声で報告をする司馬欣の声が、どこか遠い。
家族を人質に取られた気持ちは痛いほどわかる。
章邯もきっと同じような顔をしているだろう。
勝ってもも負けても殺される。国を憂い、救国のために立ちあがった章邯にとって、何よりも辛い現実が突き付けられていた。
呆然とする章邯に近づく影があった。田忠である。
「あいつらわざと逃げ道を残してくれた。逃げるぞ」
「……それでも、私は祖国に殉じたい!」
死を覚悟して愛国心から立ち上がった章邯である。たとえ死ぬとわかっていても逃げるという選択肢はなかった。
そんな彼女を田忠の視線が鋭く射貫く。そして問うた。
「貴女が仕えるのは、国か民か」
「……!? わ、わたしは……!」
「秦という国はもはや助からないだろう。だが、秦の民を救う方法はある。お前が救いたいのはどっちだ?」
ボロボロと涙を流しながら、章邯は田忠と逃げることに同意した。
「俺たちもご一緒させて下せえ」
「正規軍ではなくなるぞ? 反乱軍扱いだ。それでもいいのか?」
「あのときの章邯様と田忠様の演説に俺たちは胸を打たれたんでさあ。地獄の果てまでお供しやす」
「……ありがとう」
闇夜に紛れて逃げようとする章邯と田忠に、元囚人の兵士たちが加わった。
ここに史実にない軍団が誕生したのである。
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