ターン91 遊野清明と河風現
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薄になってきた彼女の体を、無言で強く抱きしめる。彼女もそっと僕の背中に手を回し、それに応えてくれる。
さようなら、とは言いたくなかった。ならこんな時には何を言えばいいのか僕の足りない頭ではわからず、ただただ力を込めて抱きしめることしかできなかった。そうしている間にも現の体は薄く、軽く、最初から存在しなかったかのように消えていく。それでも彼女には、僕の想いは確かに伝わったらしい。
「うん。幸せに、ね」
その言葉を最後に、現が消えた。朝日の照らす中で自分の腕に目を落とすが、もはやその手は何も掴んではいなかった。視界がにじみ、ぼやけてほとんど何も見えなくなる。何度も何度も頬を涙が伝い、地面に落ちる。
しばらくの間、ずっとそうしていた。それを咎める者はどこにもおらず、僕はいつまでも、いつまでもただ涙を流していた。
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