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連絡は取らない
第一章
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               連絡は取らない
 綾瀬芹香はいつも仕事場所である大学に籠って講義に研究に論文の執筆にと多忙な日々を過ごしている。
 だがそれでも芹香も人間だ、だから家族もいる筈だが。
「綾瀬先生に家族?」
「いるのかな、そんな人が」
「あの人生活臭ないから」
「研究とか論文ばかりで」
「家族っていうと」
「独身だし」
 このことは有名だった、浮いた話一つない。
「家族ねえ」
「あの人にもいるのかな」
「そりゃ機械じゃないしいるだろうけれど」
「今は一人暮らしじゃないの?」
「そうじゃないの?」
 こう話していた、誰もが。
 しかし芹香自身はそうした問いにはいつも無表情で答えた。
「父親いるわよ」
「お父さんおられるんですか」
「そうなんですか」
「ええ、生物学上でも戸籍上でもね」
 どちらの意味でもというのだ。
「同一人物でね」
「じゃあそのお父さんがですか」
「先生のご家族ですか」
「そうなんですね」
「ええ、けれどね」
 芹香はこう自分に家族のことを問うた彼等に答えた。
「音信不通よ」
「そうなんですか」
「連絡取ってないんですか」
「お会いしていないんですか」
「高校を卒業して大学に入って」
 それでというのだ。
「一人暮らしはじめてね」
「それでなんですか」
「その時からですか」
「別々に暮らしていて」
「それで、ですか」
「音信不通ですか」
「そうなっていますか」
「ええ、そうよ」
 こう言うのだった。
「本当に特にね」
「何もですか」
「連絡も取ってなくて」
「それで、ですか」
「やり取りもなくて」
「完全に音信不通ですか」
「そうよ、まあ生きているでしょ」
 芹香は何処か他人行儀で述べた。
「何処かで」
「いや、それって何か」
「親御さんに言うことじゃないですよ」
「愛情とかそういうのありますよね」
「だったら」
「そうはいっても忙しいし」
 芹香は何でもないといった顔で自分に家族のことを尋ねた彼等に答えた。
「それも向こうも連絡してこないし」
「だからですか」
「別にいいですか」
「そんな風ですか」
「ええ、まあ何かあったら連絡がくるわよ」
 これが芹香の考えだった。
「その時はね、何もないってことは」
「お父さんも元気ですか」
「そうお考えですか」
「ええ、大丈夫でしょ」
 本当に素気ない芹香だった、そしてだった。
 芹香はこの他のことは誰にも話さなかった、その父親が一体どういった人なのかを。だからこそ誰もがだった。
 芹香の父親が何者か知りたがった、だが芹香は父親がいると言っただけで何も語らない。それでだった。
 このことについてだ、彼等は話した。
「話すに話せない?」
「そんな事
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