第1章 春秋戦国時代〜不知而言不智、知而不言不忠〜
第2話 さらば友よ
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限は一年。どうか良い結果を持ってきますように。
×月◆日
1年が経ち、約束の日を過ぎても徐福は戻ってこなかった。徐福の親類は皆殺しにされた。
最近のお姫様は情緒不安定である。老いへの恐怖に苦しんでいる。
俺が慰めても、逆効果にしかならない。
気に食わない本を全土で燃やしたり、儒者連中を殺したり。
俺が止めても、もはや声が届かぬようだ。
どうすればいいのか……。
◎月☆日
俺は、咸陽から逃げ出した。
どこかの馬鹿が、「仙人の血肉を食らえば不老不死になれる」とお姫様に吹き込んだらしい。
方士と儒生の連中だろうな。法吏の庇護者だった俺が邪魔だったんだろう。
秦は三つの派閥に分かれている。
薬学や医療に通じた方士。
伝統を重視する儒生。
中央集権を目指す官僚集団である法吏。
これらが、派閥争いをしていた。俺は法吏の立場にいつつ、内部対立を抑えようと尽力していた。
不老長寿の薬の発見に失敗した方士を庇い、弾圧から儒生を守った。
だが無駄だった。いや、恩を感じてくれた一部が、事前に知らせてくれたからこそ、こうして逃げられたのだ。一概に無駄とはいえないか。
お姫様……政のことは心の友だと今でも思っている。でも、俺の居場所はここにはない。
そうだ、インドへ行こう。
◆
田忠出奔の報は、秦の全土を揺るがした。
始皇帝が秦王に即位したときからの股肱の臣を失ったのだ。
さらに悪いことに田忠は有能過ぎた。
政治から軍事に至るすべてにおいて田忠は関与しており、その穴埋めは簡単ではない。
派閥対立も酷くなった。方士、儒生、法吏のパワーバランスが崩れ権力闘争に明け暮れた。
国内の不満も高まっている。税を軽くして始皇帝から処罰を受けた例からわかる通り、田忠はあの手この手で征服したばかりの民の慰撫に努めていた。
ときに彼らの要望を聞き入れ、代弁者として宮中で動くこともあった。
その田忠が出奔したことで、地方は動揺している。
田忠の出奔の理由については様々な憶測が流れたが、ある時から「血肉を喰らおうとして逃げられた」という噂がまことしやかにささやかれるようになった。
民たちは一笑して冗談だろうと受け止めていた。だが、やがてそれが事実であるという話が広まるにつれ不安が募っていく。
忠臣を殺すのではなく「食らおう」としたのだ。そして、その忠臣は民の味方であった。始皇帝への不満はいよいよ高まる。
「陛下、なぜ民草どもの噂を放っておくのですか!」
「……これは余なりの贖罪なのだ」
「なりませぬ! このままでは陛下の名声が地に落ちますぞ! 天下の逆賊田忠を許してはなりませぬ!」
「黙れ!! 貴様に田忠の何が分かる!
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