暁 〜小説投稿サイト〜
ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──
Alicization
〜終わりと始まりの前奏〜
曇天
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「正確にはサンフランシスコ辺りのシリコンバレーってトコ。ソウ君――――蓮のお兄さんから『来い』って国際便が来たらしいんだよね」
「お兄さん……?蓮君、お兄さんいたの??」
初耳という様子で明日奈が首を傾げる。その所作が普段のお嬢様然としたサマから外れ、妙に小動物じみていて木綿季は思わず笑いそうになるのを危ういところで堪えた。
「いるよ。ちょっとした有名人でさ。小日向相馬っていったら分かる?」
「え……。ちょ、ちょっと待って!小日向相馬ってあの!?史上最年少ノーベル賞受賞者!?」
「あはは、今ではもっぱらロシアの七色ナントカって子が有名だけどねー」
ちなみにそれは、小日向相馬を中心に幾重にも取り巻く権謀術数から少しでも一般人の目を逸らすために各国が行った情報操作だったりするのだが、あくまで庶民の枠を出ない二人の少女はそんな国家規模の思惑など知る由もない。
「そんなお兄さんが蓮君に……。でも、なんで?」
「さぁ、そこは分かんないな―。ソウ君はあんな身分だからさ、ふらーっとどっか行っちゃって、SAOの前から家にいないことがあったんだよ。蓮が分からなかったら、ボクにも分かんないよ」
大勢は合っている。だが、木綿季の言葉には嘘が混じっていた。
去年の十二月の出来事。時系列で言えば、GGOでの一件のすぐ後。
両親と姉の墓前で偶然にも顔を合わせた相馬は、不穏な一言と共に姿を消した。あれが無関係とはとてもではないが思えない。
それに、蓮自身もそうだ。
アパートの食堂で一緒に夕食をとっていた時に、まるで世間話のようなノリで切り出された際にはもう少しで聞き流しそうになった。その際、あの少年はその年齢にはまったく似合わない、どこか老獪な微笑みを浮かべてそう言っていたが、それゆえに彼の言葉全てがそのまま真実だとは信じられない。
あの兄妹は、嘘をつくには向いていない。
だいたい、蓮の体調や車椅子のことについても、いまだに自分に対して上手く隠せていると思っているフシもある。
―――違うよ、蓮。訊かないだけだよ。訊いても、困った顔をするだけで答えてくれないって、知ってるだけだよ。
ストローをくわえたままで、木綿季はカフェテリアの窓から再度空を見上げる。
その空は相も変わらず蓋をされたような曇天で、どこかそれは巌のように天を覆っていたアインクラッドの階層の空を連想させた。
それを見ながら軽く木綿季は顔を振った。
この思考は駄目だ。
この逃げは駄目だ。
GGOでさんざん学んだではないか。一人で理解して、お綺麗にまとまりがいい方向に勝手に行こうとしてもロクなことにならない。
ぶつからないと得られないものもあるのだから。
――――とはいえ。
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