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=体育祭編= セレクト・アウト
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 『轟の顔、肩、腹に1発ずつ拳を叩きこんだうえで轟の攻撃を回避していた』。



「ガッ……!?」
「あ……???」

 なん、だろう。これは、今――何か背筋が熱くなるような何かが流入し、その瞬間俺の感覚が俺の時間と乖離した。あの達人特有の瞬間をスローで感じ取れるようになる、といった刹那の見切りではない。
 今の俺は、それが出来る当然の事だと思うように轟に複数発の攻撃を叩きこみ、そのうえで『轟が氷を展開したのを確認して回避』した。轟が唖然とするが、俺も唖然としている。自分の感覚と意識が『おかしいのに噛み合っている』。

 今の俺は、未来を見なかった。
 何だ、この世界は。
 まるで、ふうせんとなった体に無尽蔵に空気が送り込まれているような――思考が過敏になり、過敏な思考が更に過敏に肉体に送り込まれる。俺は次の瞬間、轟の視界から消える速度で走り出していた。

 頭が、ズレる。何か、聞こえる。

『がんばって』

『まけないで』

『――変えられない未来なんてないもの』

 貴方は、誰だ。ああ、轟が攻撃してくる。考えるな、と念じた時には轟の攻撃への対処という思考が独り歩きして体が爆発的に動く。過敏になりすぎたブレーキのように、僅かな一押しが体を勝手に動かす。過剰なまでの力の流入――体の制御が、利かない。

 足が千切れる、肺がはち切れる、心臓が爆発する。駄目だ、視界に見るなと命じても見る意識が勝手に見て、動くなという意識を動く感覚が上書きしていく。これは、こんな事が。ありえない。

 俺の個性に、こんな力はないのに――!!



 = =



 轟は父親を混ぜた挑発を受けたことに激昂して要らぬ隙を生み出してしまったことを後悔するより、一撃で氷の攻撃にて水落石を仕留められなかった事より、ただただ唖然とした。幼い頃から人でなしの父に叩きこまれた訓練のせいか自分が何をされたのかは理解したのに、その現実が余計に混乱させる。

 水落石は、飯田のレシプロに匹敵するかそれ以上の速度で轟の懐に入り込み、複数回の攻撃を叩きこんで視界から失せた。失せたということは死角に入られたという事だ。

 普通なら、水落石にそんな異常な速度で動ける切り札があったのかと混乱したり、あり得ないと現実を否定する事で隙を生んでいるのが常人だろうが、この時ばかりは訓練で叩きこまれた反射的行動が功を奏した。
 瞬時に自分の背後、攻められるであろうルートを氷で閉鎖して水落石の居場所を炙り出す。轟に出来る、その場の全員が認める最適解を導き出し、実行した。

 氷をむやみに出せば自分の視界を塞ぎかねないし、遮蔽物は水落石にとっては利用できる道具になるのを承知で出さざるを得なかった。結果的にそれは轟にプラスに働いた。

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