第一章
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父と花火
花房遥の父元太郎はお世辞にもいい父親ではなかった。とかく家族特に妻の弓香を泣かせてばかりだった。
娘には手を出さなかったが家で大酒を飲んでは妻を殴ってだった。女遊びもしていた。
そして家に金は入れても好き勝手していた、遥はそんな父を見ていつも嫌な思いをしていて幼い時から母に言っていた。
「お母さん、もうね」
「離婚ね」
「そうしないの?」
幼い時に聞いたこの言葉も言うのだった。
「いつも殴られて浮気されてるのに」
「しないわ、だってね」
娘を見てだ、母はいつも娘に言っていた。自分と同じ細い目と白い肌に赤がかった癖のある髪の毛の娘を見て。
「お母さんだけだったら暮らしが大変でしょ」
「私達の暮らしが」
「そう、それにね」
さらに話すのだった、いつも。
「お父さん家にお金は入れてくれてね」
「そしてなの」
「そう、遥ちゃんは殴らないから」
このこともないからというのだ。
「そうしたことはしないでしょ」
「いつもお母さんを殴るのに」
大酒を飲んだうえでだ。
「それで浮気もするのね」
「それでもよ、お母さんだけだったらね」
娘の遥がというのだ。
「大変だから。お母さんさえ我慢していればね」
「私がなの」
「苦労しないから」
だからだというのだ。
「いいの」
「そうなの」
「ええ、遥ちゃんが普通に暮らせて暴力を受けないから」
それでいいとだ、母はいつも言って我慢していた。とかく問題の多い夫の行いに対して。
しかしこの元太郎もだ、夏になるといつもだった。祭りの時になるといつも家にいて妻と娘に言った。
「おい、行くぞ」
「お祭りに?」
「そうだ、着替えろ」
浴衣、それにというのだ。
「いいな」
「ええ」
弓香も遥も頷いてだ、そうしてだった。
二人はいつも元太郎についていった、その時元太郎は二人に出店のものは欲しいものは何でも買ってやってだった。
いつも花火を見た、その打ち上げ花火を見て言うのだった。
「これを見ないとな」
「駄目なの?」
「そうだ、夏はな」
何といってもと言ってだ、花火を最初から最後まで見た。
そうしてだ、遥にいつもこうも言っていた。
「花火がないと夏じゃないんだよ」
「お父さん花火が好きなの」
「好きだ、いや」
ここで己の言葉をこうも訂正した。
「この世で一番好きだ」
「そうなの」
「だからこうしてな」
花火が打ち上げられる最初の一発からだ。
「最後もな」
「見るの」
「そうする、どんな祭りでも行ける場所なら」
それこそというのだ。
「行ってみてるだろ」
「そうよね、いつも」
「花火を見なくてな」
それこそというのだ。
「何もならないからな」
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