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殿様と西瓜
第五章

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「普通に食してもようそうです」
「そうなのか」
「噛んでそうして食ってしまえば」
「豆の様にか」
「そうすればです」
「よいのじゃな」
「左様です」
 こう殿様に話した。
「ですからそのまま」
「そのこともわかった、ではな」
「種もですな」
「食しよう」
 その黒く小さなものもというのだ。
「このままな」
「そうされて下さい、異朝では種だけで齧ることもあるとか」
「異朝というと清か」
「はい、あの国では。金瓶梅という書ですが」
「待て、その書はあれではないか」
 殿様は家老の今の言葉にはついつい笑って言葉を返した。
「あまり読んではならぬ書ではないか」
「好色の書ですな」
「下世話な、そうした書ではないか」
「はい、しかしです」
「あの書に書いてあったのか」
「西瓜の種を食べる場面が確かありまして」
 それでというのだ。
「西瓜の種のことはです」
「そなたは知っておったのか」
「左様であります」
「そうか、まあその書のことはよいとして」
 殿様は読んだことはないがだ。
「西瓜はな」
「まことに美味なものですな」
「うむ」
 今度は満足している笑みでだ、殿様は家老に答えた。
「実にな」
「それで毎日ですな」
「これから食したい、夏の間はな」
「あまり上等なものではないですが」
「それでもじゃ」
 構わないという返事であった。
「これだけ美味なもの、上等だの下等だのな」
「言わぬものですか」
「そうじゃ、それでじゃ」
 そうしたことには構わずというのだ。
「余は食そう、そして藩のどの者達もな」
「西瓜をですな」
「まだ食しておらぬ者がおるのならな」
 そうした者達までというのだ。
「食せる様にしよう」
「ではこのことをですか」
「政にしようぞ」
 こう言ってだ、殿様は西瓜を毎日食べると共に藩の誰もが夏は毎日食べられる様にした。そうしてこの藩では西瓜も名産品となり名を知られる様になった。
 この話がどの藩のどの藩主の話であるかは知られていない、しかしこうした話がありこの藩では西瓜が有名になり今も尚名産となっているという、そのはじまりがこの話である。西瓜が広まるにもこうしたことが時としてあるということだろうか。夏の暑い時にこの上なく美味い赤く甘いものについても。


殿様と西瓜   完


               2018・1・12
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