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殿様と西瓜
第四章

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「そうしまして」
「そのうえでか」
「切ってそのうえで」
「今こうしてじゃな」
「殿の御前にお出しした次第です」
「成程のう」
「ではこれより」
「食してみよう、しかし見たところ」 
 三角に切られた幾切れもの西瓜達を見ての言葉だ。
「これは箸では食さぬな」
「手で取ってです」
 家老は殿様にこのことも話した。
「そうしてです」
「瓜の様にか」
「赤いところを食するのです」
「そうか、ではな」
「食されて下さい」
「そうするとしよう」
 殿様は家老の言葉に頷いた、そうしてだった。
 その西瓜を手に取って口に近付け先を食べてみた、そのうえで噛んで飲み込んでから家老に言った。
「美味いな」
「左様でありますか」
「それもかなりな、甘くてみずみずしくてのう」
「美味いのでありますな」
「これはな、これならばな」
 それこそと言うのだった。
「幾らでも食えるわ」
「そこまで美味しいですか」
「実にな、いやこれ程までとは」
 西瓜の美味さに唸ってもいた。
「思わなかった、ではな」
「お出ししている西瓜はですな」
「全て食する、それとじゃ」
 さらに言う殿様だった。
「一個切ったといったな」
「はい」
「余の前に出ているのがその一個か」
「いえ、四分の一程であります」
「そうか、ではな」
 そう聞いてだ、殿様は家老にこう言ったのだった。
「これだけ美味いものを余だけで食しては罰が当たる」
「天罰がですか」
「だから残りの四分の三はお主達が食え」
 家老達がというのだ。
「分け合ってな、そしてじゃ」
「美味い西瓜を楽しめと」
「そうせよ」
 こう言うのだった。
「よいな」
「それでは」
 家老は殿様の言葉に頷いた、そのうえで答えた。
「後程そうさせて頂きます」
「その様にな、しかしまことにな」
「西瓜はですか」
「美味い、これからは毎日食したいわ」
「夏の間は」
「そうしたい位じゃ」
 そこまで美味いというのだ。
「これ以上はないまでのものじゃ」
「そこまで気に入られたのですか」
「まことにな、種はな」 
 西瓜の中のそれはというと。
「少し邪魔じゃが」
「それはどうも異朝ではです」
 家老は己が読んだ書のことから種のことも話した。
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