【前編】狼の牙が折れる時(ダリル・ケイシー)
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人の若者顔がその瞳に映る。
直ぐにダリルは、相手が『ターゲット』だった山田太郎である事に気づく。
だが、もはやダリルの心はボロボロだった。
「死にたくない…………」
本来、噛みつくように罵声を浴びせるはずだった口は、自然と言葉を紡いでいた。
その言葉と態度に内心で満足を得ながら、太郎の攻め手は止まらない。
「ほう、亡国企業に新参とはいえ、幹部待遇で所属している俺を襲撃して、言葉一つで『許せ』か。随分偉いんだな」
太郎の言葉にダリルが何も言えずに俯いていると、太郎はスマホを操作し、『ある画面』を見せる。
ダリルがつき出された画面を見ると、そこにはスポンサーの一人が、行方不明になった見出しが。
「遺体とか見つけられても面倒だから、居なくなってもらったらしいぜ?まあ、俺の手で下せなかったのは業腹だが、その代わり慰謝料はガッツリ貰ったよ」
つまりは、だと前置きしてから太郎は告げる。
「後はお前の扱いだけなんだが」
ダリルは暴れた。悲鳴と命乞いを続けながら。
だが、太郎はそれを全く意にかえさない。
薄く笑みを浮かべて、眺めたまま。
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暫く暴れた後、疲れて汗だくになったダリルに、ポツリと太郎は告げる。
「貴様を生かして、俺に何のメリットがあるのか、言ってみろ」
それは、甘美な一筋の蜘蛛の糸。
差し出された助命への道に、ダリルは必死に食らいついた。
「は、はい。私の家からお金も出せるし私自身も戦えるし…………」
は、と太郎は鼻で笑った。
「お供引き連れて即殺された実力を買えと?それに俺が金恵んでもらう必要があるとでも?」
太郎の言っている事はハッタリでも何でもない。
女尊男卑を掲げるグループでは『ISを使えるだけ』と言われていた太郎の実力は、ダリルがどう少なく見積もっても亡国企業の上位陣に匹敵しているし、世界のミリタリーバランスの根幹たるISの特許所有者である彼が金に不自由している訳じゃない。
この時点になって初めて、ダリルは女尊男卑思想という差別で山田太郎という人間をどれだけ誤認していたか気づいた。
だが、そんなこと今言っても関係ない。
「あ…………な、何でもします!何でもしますから!」
「だから具体的に『何』が出来んのか聞いてんだろ?」
僅かに太郎の口調が乱暴になり、強くなるのを聞いて、ダリルの焦りは最高潮に達した。
お金も駄目。武力も駄目。
今まで家の権力や自身の武力で好き勝手していた彼女には、そう引き出しは多くない。
だから、極限状態で彼女が最後にすがったのは、シンプルかつ、直ぐに差し出せる『モノ』だった
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