第五章
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「どうもね」
「はい、しかもどんどん」
見ているとだ。
「大きくなってますよ」
「ひょっとして」
ここで勇五郎ははっとなった、それで裕子に言った。
「あのおばさんこそが」
「ここに出るっていう」
「妖怪じゃないかな」
それではとだ、裕子に言ったところでだった。
中年女は見る見るうちにその大きさを倍にさせた、そしてさらに大きくなって二人を見てけらけらを笑った。この事態にだ。
裕子もびっくりしてだ、勇五郎に言った。
「先輩、本当に出ましたよ」
「三森さんは後ろに」
「後ろ?」
「うん、僕の後ろに入って」
そこにというのだ。
「僕が盾になるから」
「若しもの時はですか」
「そう、だからそうして」
「いいですよ、先輩だけ盾になるとかないです」
裕子は勇五郎の言葉にきっとした顔になって返した。
「私も一緒にいますよ」
「いいの?」
「いいですよ」
一行にという返事だった。
「逃げる時は一緒ですよ」
「だからいいんだ」
「余計な気遣いは無用です」
こう勇五郎に言うのだった。
「いいですね、とにかく妖怪が襲ってきたら」
「一緒にだね」
「逃げましょう」
こう言ってだ、妖怪を見る。だが妖怪はビルの様に巨大になってもけらけらと笑うだけで何もしてこず。
何時の間にか消えていた、その一部始終を見てだった。
裕子は怪訝な顔で首を傾げさせて勇五郎に言った。
「何かもう」
「いなくなったね」
「そうなっちゃいましたね」
「何だったのかな、あの妖怪」
「大きくなって笑うだけで」
「他には」
「これといってなかったですね」
全く、というのだ。
「本当に」
「そうだったね」
「いや、訳がわからないですよ」
「そうだね。まあとにかく妖怪を見たから」
それでと言うのだった。
「それでね」
「はい、神戸に戻りますか」
「そうしようね」
二人で話してだ、そしてだった。
二人は実際に一旦神戸まで帰った、その次の日勇五郎はミステリー研究会の部室で裕子に対して言った。
「あの妖怪はけらけら女っていうみたいだよ」
「そういえばけらけら笑ってましたね」
「うん、ああして大きくなってね」
「人を見てけらけら笑うんですか」
「それだけだよ」
「襲ってきたりしないんですね」
「そうみたいだね、調べたら」
これがというのだ。
「ただ笑うだけで」
「人を見て」
「それ以外はね」
「これといってしないんですね」
「ああして大きくなるというか」
「というか?」
「普通は最初から大きいみたいだね」
そうした妖怪だというのだ。
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