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翠碧色の虹
第二十九幕:思い込みの虹
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いつからだろうか・・・いや、そんなに遠い過去の事ではない。俺がこの街に来てからの出来事、「ふたつの虹」を持つ水風七夏という少女と出逢ってから、その少女を通して「人を撮影する事」が多くなった。この街へ来た目的は「ブロッケンの虹」という少し不思議な虹を撮影する事。それと、街の風景の写真も撮影する事であり、人を撮影するという事ではなかった。
部屋に戻ってから、制作途中のデジタルアルバム、そして写真機の中に入っている画像を見ると、人が主となった写真が多い事に改めて気付く。これは、言うまでも無く七夏ちゃんの影響だ。さっき、写真機のファインダーの中に偶然入ってきた七夏ちゃん・・・その時の表情が脳裏に焼きついたままだ。

時崎「どうすればいいのだろう・・・」

俺は、常に持ち歩いていた写真機と距離を置いてみる事にした。今、この写真機を持ったまま七夏ちゃんと会うのは、七夏ちゃんに辛い思いをさせてしまいかねない。かと言って写真機がなければ、凪咲さんとの約束も完遂できなくなってしまう。さらに、余り時間も無い。とりあえず、今日一日は写真撮影を行わない事にしよう。明日以降も七夏ちゃんの様子次第という事になる。七夏ちゃんの撮影は無理だとしても、七夏ちゃん以外の撮影は可能だと思う・・・ただ、それでは・・・。

時崎「とりあえず、制作を進めるか・・・」

俺は、アルバム制作作業を再開する。気分が晴れない影響か、なかなか思うように作業に集中できない。七夏ちゃんと出逢った時の写真から、ついこの前までの笑顔だった写真までを一つずつゆっくりと眺めてゆく。再びこの笑顔を取り戻さなければならない。凪咲さんへのアルバムだけにしか存在しない七夏ちゃんの笑顔・・・俺が望むのはそうではなく、これからの七夏ちゃんも、笑顔で思い出が残せるようになってもらう事だ。凪咲さんもそれを望んでいるのは間違いない。

時崎「!?」

窓の外から綺麗な声が聞こえてきた。その声は夕暮れ時と雨が上がった事を知らせてくれた。

時崎「ヒグラシ・・・か」

蝉の中では異例なほど美しく、儚いヒグラシの鳴き声・・・いや、これは「歌声」というべきだろうか。窓を開けて、しばらくその歌声に耳入る。今までの心のモヤモヤ感を流してくれるような感覚だ。ヒグラシは雨があがった事を、この街全体へ届けるかのように、その美しい歌声と共に遠くへと去ってゆく。

時崎「ありがとう・・・救われたよ」

届くはずがない事は分かっていても、届けたい気持ちがある。

時崎「そうか!」

七夏ちゃんには、想いを届ける事ができる。俺だけでなく、凪咲さん、直弥さん、天美さん、高月さんも、同じ気持ちのはずだ。みんなが同じ気持ちなら、七夏ちゃんはきっと答えてくれるだろう・・・みんなの事を大切に思える
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