ターン90 鉄砲水と小さな挽歌
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クネスの支配に甘んじる道理なんてないでしょう?」
なんで彼女があの廃寮での戦いを知っているのか、なんて聞くのは野暮だろう。彼女とあの人はどこまでも同一人物に近い存在、それぐらいの情報は共有していてもおかしくない。
そしてそれよりも、今の話には重要な情報が含まれている。
「じゃあ今、夢想は自由なの?ダークネスの支配から抜け出して……」
もしかしたら、戦わなくてもいいかもしれない。だがそんな淡い期待を打ち砕くようにびしっと1本突き出した指を自らの唇に当て、静かにとジェスチャーで示す夢想。その様子に気圧されて僕の言葉は尻すぼみに消えていき、入れ替わるように彼女が口ずさむ。
「……私が取り戻したのは清明のために命を投げ打った『彼女』の記憶、そして自分の言葉と名前、それだけ。ダークネスの力が私の偽りの命の全てだし、私はそれに抗えない、それは今も変わりない。私は直接ダークネスに刃向えないから、代わりにラビエルを探し出してそっちに行ってもらったの」
「ラビエルが……」
あの幻魔は僕に、なんと言っていたっけ。成すべきことを成し遂げに、か。もしかしたら奴は、こうなることがわかっていたのかもしれない。
だけどそのことについては口に出さず、代わりにもう1つの気になった点を問い返した。
「名前?」
「そう、名前。河風夢想、なんて名前は、その字の示す通り夢でしかない。ようやく取り戻した、私の本当の名前は―――――河風現。できることなら、清明にだけは私の本当の名前で。現って、そう呼んでもらいたいかな」
河風現。それが彼女の名前。稲石さんの笑顔が、ちらりと胸をよぎった。あの人も最後の最後まで、僕に本名を明かさなかった。これは、あの人の名前でもあったのだろうか。
「河風……現」
そう呟くと、彼女の笑顔が満足げで、だけどどこか儚いものに変わる。
「ありがとう、そう呼んでくれて。私のことを、私だけの名前で呼んでくれて。ねえ、清明。最後にたった1つだけ、聞かせてもらってもいいかな」
「……」
最後。それはつまり夢想との……いや、現との戦いの時が着実に迫ってきていることを示していた。僕が無言で頷くと、彼女は一度息を吸った。そしておもむろに意を決したように、真剣な目でまた口を開く。
「清明。あなたも、私と同じ側に来てくれない?世界も何もかも全部捨てて、ずっとずっと私と一緒にいてくれないかな……なんて頼んだら、あなたはどうする?」
「僕は」
この時、はっきりと感じたことが1つある。たとえ僕がこの場を生き延びて100年生きたとしても、僕はこのまま一生この瞬間のことを後悔するし、この時の自分を許すことはない。おそらく、きっと、だろう、だなんて曖昧な言葉ではなく、絶対にそうだ。じゃあこの問
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