第一章
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それを言っちゃあ
井伊智子は東京葛飾区に浮かれ葛飾区に育っていた、だが今はさすらいのパン職人として暮らしている。
今は京都にいる、この古都の北区のある店に住み込みで働いているが。
朝早くからパンを焼いて店に出して開店してからだ、智子は店長である若狭さん中年の美人さんで婿入りした夫と共に店をやっているその人にこう言った。
「いやあ、京都は噂以上に」
「パン売れるでしょ」
「はい」
そうだとだ、智子は若狭さんに答えた。
「流石日本一のパンの消費地ですね」
「実際にね」
若狭さんは智子に笑って話した。
「この街は美味しいパン屋さんはね」
「人気が出るんですね」
「そうなの、誰がが食べて」
店のパンを買ってそうしてだ。
「美味しいってなるとね」
「それがですね」
「口コミで話題になって」
そうしてというのだ。
「人気になるのよ」
「そうなるんですね」
「ええ、最近はネットもあるし」
「ネットの宣伝って凄いですからね」
「下手すればテレビで紹介される以上にね」
「だからですね」
「ブログに書いてもらえたら」
有名なブログなら尚更だ。
「もうそれでね」
「大人気ですね」
「そうなのよ、だからね」
「私もこのお店にいる間いは」
「そういうことも勉強してね」
パンを焼いて売るだけでなくだ。
「京都のそうしたこともね」
「そうさせてもらいます」
倫子は若狭さんの言葉に頷き店で働き続けた、だが智子は若狭さんにもご主人にも言っていないことがあった。
それは惚れっぽいのだ、流離いのパン職人として働く先々で必ず誰か異性を好きになる。そしてこれまで必ずだ。
その好きになった相手と結ばれない、それでこの京都でもと内心思っているのだ。
「まあそのうちいい相手見付かるわね」
「いい相手?」
今日はご主人が店にいて智子の言葉に聞いてきた、若狭さんは店の奥で今日二度目のパン出しの用意をしている。
「智子ちゃん好きな人がいるのかな」
「いえ、いないんですけれどね」
智子はご主人に笑って返した。
「ですが」
「それでもなんだ」
「はい、何時かは」
こう思うというのだ。
「そうした人が出て来ればって」
「ああ、そう思っているんだ」
「私にも」
「智子ちゃんもそうしたお年頃だしね」
「それでって思うんですけれどね」
「うん、智子ちゃんなら絶対にいい相手が見付かるよ」
よくある社交辞令的な言葉だが心からだ、ご主人は智子に暖かい言葉をかけた。
「だからね」
「そうした人が出て来ることをですね」
「待っていればいいよ」
そうしていればというのだ。
「智子ちゃんはね」
「焦らずにですね」
「そう、そして何があってもね」
失恋
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