第十章 風が吹いている
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こと》乃の声を演じている女性だ。
最初そのキャスティングを知った時には、信じられなくて頭が真っ白になって、作ったばかりのデカ盛りカップを落として床に麺をブチまけてしまったくらいだ。
ほんわかしながらも芯の通った声、という声優であることは認識していたが、ほのかというキャラにまさかここまでハマるとは思わなかった。
テレビ版のほのか、本当に、最高だ。
ああ、来週が待ち遠しい。
毎日が木曜日ならいいのに。
6
都立武蔵野中央高等学校。
沢花敦子は、北校舎三階から四階への階段を上っている。
なにやら本を二冊、小脇にかかえて。
階段を上り終えて廊下に出ると、すぐ目の前が目的地である三年三組の教室だ。
業間休みでたくさんの生徒らが談笑しながら行き交う喧騒の中、廊下側の窓から室内を確認する敦子。
教室の中央に、クマのような大柄な身体をちんまりさせてアニメ雑誌を読んでいるオカッパ頭の男子生徒、山田定夫の姿を発見した。
敦子は曲げた指の節でコツコツと窓を叩くと、勢いよく開……こうとしたがロックされてて開かなかったので、既に少し開いている隣の窓を、ちょっと恥ずかしそうな顔で今度こそ大きく開いた。
「レンさんっ!」
ぶんぶん手を振りながら、元気な笑顔で呼び掛けた。
ざわざわっ。
という擬音がこれほど似合うシーンもあるまい、というほどに、三組の教室がざわめいていた。
「やは、敦子殿」
すっと立ち上がった定夫は、超肥満のくせに足取り軽く机の間をすっすっと抜けて、窓を挟んで敦子と向き合った。
どおおおおおっ、と、どよめく教室。
「ヲタヤマがっ、じょじょ女子とっ!」
「あ、あのヲタヤマがあ!」
この男子たちのリアクション。これで何度目であろうか。
あの山田定夫が、女子生徒とっ。
何千回何万回目撃しようと慣れるはずもない、というのがまあ自然な反応なのかも知れないが。
ヲタヤマいや山田定夫は、まあヲタヤマでもいいが、は自らの作り出した騒然とした空気の中で向き合う女子生徒へと話し掛ける。
「どうしたんだよ、休み時間にわざわざ」
喋ったあ!
じょ女子にっ。
ヲタヤマがあ、じょじょ女子にっ!
普通にっ!
普通に喋ったああ!
と、ざわつく教室。
「コミカケ返しにきましたあ。どうもありがとうございました。面白かったです」
敦子はライトノベルと思われる本を、そっと両手で丁寧に差し出した。
思われる、というか実際ライトノベルである。「おれがコミケにかける情熱を読みきれなかったお前は敗者」、タイトル通りの、同人誌に夢中に
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