第十章 風が吹いている
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ポーツ万能眉目秀麗実家金持エトセトラな三年生である。
アニメ好きのくせに、こっち側ではなくあっち側な人間である。
線引きをするまでもなく、見た目やにおいで一瞬で分かる、あっち側の人間である。
北緯三十八度線を渡った、あっち側の。
定夫が勘違いして渡ろうものなら、銃殺間違いなしの。
だが、しかし、
定夫は、彼らへとちらり視線を向けた。
おずおずとした、上目遣いの、自信のない、捨てられた子犬のような……ではなく、顔をまっすぐ前に向けたまま、中井との身長差の分むしろ少し視線を下げて。
視線を向けた、というよりは、そらさなかったというのがより正しい表現かも知れない。
そう。
中井修也を見る定夫の目つきや態度は、かつてとはまったく異なっていた。
定夫だけではなく、それは、トゲリンたちも同様であった。八王子は背が低いので少し見上げる格好にはなってしまうが、首を下げての上目遣いではなく、顔はしっかり真正面を向いたままだ。
いつもとなんら変わらぬ、女子と楽しげに話している、人生謳歌しているような、人生殿様キングのような、しかしなにも知らぬ、中井。
そう。
中井は変わっていない。
なにも変わっていない。
中井を見る、おれたちが変わった。
中井は変わっていない。女子にモテモテの、普段通りの中井だ。中井ハーレム株式会社だ。
そんな中井を、ちょっと下に見ている。
そう。
変わったのはおれたち。
中井は変わっていない。
おれたちが、変わった。
中井は変わっていない。
むしろ変わるな。
変わったのは、おれたち。
確実に、変わった。
知っているぞ、中井。
お前、この間、「ほのかハマってるんだあ」とか、いってただろ。ボーイズラブみたいなその鼻声で。
誰が作ったと思っている。
ほのかを、誰が生み出したと思っている。
顔がいいから女子にチヤホヤされているだけの、お前に出来るか?
顔がいいからアニメ好きのくせに女子に気持ち悪がられない、お前に出来るか?
おれを、おれたちを、誰だと思っている。
お前に出来るか?
中井い、お前に出来るかあ?
と、同じようなことを、トゲリンたちも考えていたのだろうか。
考えていたのだろう。
いつしか、誰からともなく笑い声が漏れて、三人で、ふっふっふと声を合わせていた。
中井アンド女子たちと、すれ違った。
汚物でも見るかのような彼女らの視線などまったく気にせず、ふっふっふ。
振り返り、去りゆく奴らの背中へ目掛けて、ふっふっふ。
モテろ。
お前はモテろ。中井。
小市民的な優越感に浸っているがいい。
ふっふっふ。
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