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或る皇国将校の回想録
第四部五将家の戦争
第六十七話まつりの仮面は何に憑く
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笑を浮かべていた。
「えぇ、借りはもう、返しきれぬほどです」

 友と呼んでよい筈の新城は既に最前線に踏みとどまっている、崩れかけた――否、崩れた部隊をかき集めて握りしめながら。己の命も、子供を兵として使い捨てる業も、何もかも握りしめながら。
誰の都合の為であろうか、俺の都合か、馬堂の都合か、駒城の都合か、守原の都合か、御国の都合か、いやその全てだ。
 ――あぁ彼が生死をかけて義理を果たそうとしているときに横槍を入れたのが俺だ。そう、もはや返しきれないだろうな。

「だからこそ、ですか」
 
「えぇ馬堂は新城に返しても返しきれぬものがあります‥‥‥それだけではありませんが」

 
「――無理をしないでください、とは言えないのでしょうが、それでももう二度と北領の時のような事はやめて下さいね?葵も何か考えているようですし、誰も彼も戦争の事ばかりになっています」
 
 茜が目を伏せてそういうと豊久は慌てて言葉を継ぐ。
「なんとかします。私たちが――新城、御育預殿がこの騒動の中心です。この騒動が収まれば葵君も――」

「次の騒動が始まる。この戦争が終わるまで――いえ、このままならば終わった後はなおひどくなる、そうでしょう?」

 
「それは――必要な事です。だからこそ天下は廻っているのです」

「――あなたは本当にそう思っていらっしゃるのですか?」
 顔をあげた茜の目は医師が患者を診るような怜悧な色を湛えている。
「‥‥‥」

「葵は致し方ないかもしれません、ですが碧も私たちが続ける騒動に未来を左右され続けるのは――」

「私は“馬堂”ですよ、駒州公の重臣で、軍人で、位階をもっています。貴女も伯爵家の御令嬢で――」
 豊久の言葉を遮り、常よりも強い口調で茜は言葉を紡ぐ。
「碧の姉です、貴方の許嫁です。どれが上という話ではありません。」

「それは――」

「違いますか?」
 そう言いながら茜はふわり、と立ち上がり豊久の隣にかけた。
「いいえそれは違います、違うのです――この国が無ければ我々はありません、私は将校です、この国が潰えるか、私が死ぬまでは」

「えぇその通りです」
 豊久の腕に茜は手をまわす。
「ならば――」

「それは将家、将校としての貴方です、豊久さん」

「私は将家の後継ぎであり、将校です」
 そう言いながらも茜の深い瞳から目を逸らすことができない。
 
「公私を分ける事と公で私を塗りつぶすのは全く異なります。貴方は公私を分けようと、過剰なまでに演技をしています。えぇ人の子であれば誰しも演技をするものです、特にあなたのような立場と考えの人はね――」
 茜は豊久の耳に唇を寄せ、囁いた。
「――ですが自分の作った仮面に振り回されるようでは――二流ですよ」

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