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或る皇国将校の回想録
第四部五将家の戦争
第六十七話まつりの仮面は何に憑く
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だ。特に俺達のような稼業では

頬を張り、気合を入れなおす。そのような相手だからこそ、踏み込むことに価値がある。かつて将校だった時にもあれこれと将家連中相手に立ち回ったではないか。

 そして退役中尉の新聞記者は皇都の学士達が綴る歴史の裏でおきた騒動に足を踏み入れた。



同日 皇都 弓月家上屋敷 応接室
馬堂家嫡男 馬堂豊久


 久々の皇都――久々といってもほんの一月ほどなのだが戦塵にまみれていると皇都の生活がひどく懐かしくなる。
いの一番とはいえないが、私事に手が回せるようになって即座に転がり込んだ相手はいつものように静かに温かく迎えてくれた。

「お疲れ様です。豊久さん、また大殊勲を挙げたとか。皇都でもさぞお忙しいでしょうね?」
 弓月茜――弓月伯爵の次女であり、政治的な駆け引きの中で決まった馬堂豊久の許嫁である。
「大殊勲といっても結果論では不甲斐ない有様ですがね‥‥‥部下と運に恵まれました」
 豊久はわずかに頬を赤らめながら答える。どうにも彼女が苦手なのだ、恐ろしいわけでも嫌っているわけでもない、むしろ自分よりもはるかに“畏い”ひとであると一方ならぬ敬意を払っている。

「少佐から三か月で大佐、軍のことはわかりませんが――随分と身が重くなったように見えます」

「箔がついた――そう思うようにしています」
 意図的に軽薄そうに肩をすくめる。実情を彼女こぼしても何の意味もない、彼女の父に伝われば――などという考えに至ってしまう程度に。

「この国が滅びかけているとはいえども。否、滅びかけであるこそ貴方についた箔は重くなるものです」

「えぇまったく!おかげさまで肩が凝ってしかたありませんとも!」
 腹の底からこみ上げてきたものをどうにか冗句に捏ねなおす。
「――それに箔を使ってやる事はいくらでもありますよ。中央への働きかけは父上達でなければできませんが同じように前線と中央を繋ぐことは私にしかできません」

 誠心誠意御国の為などとは言えまいがな、と自分の中の何かが囁く。優秀な駒州の重臣はいくらでもいる。堂賀准将の伝手を使えば更に手段は増える。それでも自分で抱えたがるのは――聯隊長としての仕事は大辺達に任せてこうして皇都に訪れている――その理由は――すでに自分の行動がどこまでが“家”のものでどこからが自分の自由意志なのか疑問を抱く事すらなくなっている。

 ふ、と静寂の帳が下りる。茜は無言で豊久を見つめている。
「六芒郭に新城様がいらっしゃると聞いています、やはりその件の為にでしょうか?」静寂をすり抜けるように滑らかな声で問いかけた。
 
「御育預殿がいなければ北領でどうなっていたかわかりません。戦上手ですよ、貸しも数え切れぬほどありますが――」
 ふ、と無意識に“いつもの”微
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