第一章
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狐の試験
中国明代初期の話である、丁度永楽帝の統治が終わりに近くなってきた頃であろうか。洛陽にいる学者陳達極の家に訪問してきた者がいた。
会えば科挙を受けようとする書生の服を着た若い男で名前は李栄といったが彼の顔が長く目は細く吊り上がっているのを見て陳はすぐに言った。
「お主狐であるな」
「あれっ、おわかりですか」
「その顔を見てわかった」
李のその顔をというのだ。
「尻尾は出しておらぬがな」
「顔で、ですか」
「それでわかったわ、もう少し上手に化けるべきであるか」
「いや、これまで見抜かれたことはなかったですが」
「わしにはわかった、しかしお主どうしてわしの家に来た」
厳めしい顔にある濃い口髭をしごきつつだ、陳は李に問うた。眉は太く目の光も強い。洛陽においては名を知られた学者であり顔立ちにも知性が出ていた。
「化かしにでも来たか、なら道士を呼ぶぞ」
「いえいえ、部屋を借りてです」
「部屋をか」
「そこで学問に励みたいのです」
李は陳に畏まって答えた。
「それで先生のところに参りました」
「狐が学問をか」
「はい、そうなんですこれが」
「人のふりをして科挙を受けるつもりか」
陳は李の言葉を聞いて首を傾げさせた。
「そのつもりか」
「はい、そうなんです」
「狐の世界にも科挙があったのか」
「あるんですよ、これが」
李は自分の話にいぶかしむ顔になっている陳に話した。
「人間の世界と同じく」
「天帝にお仕えする為か」
「いえいえ、仙人になる為にです」
「仙人になれるのは人だけではないのは知っている」
このことは陳の学問故のことだ。
「修行すれば人は五百年、獣やものは千年だったな」
「そこはあれです、小説の」
「封神演義だな」
「あれに書かれている通りです」
「学問をする者は表立っては小説は読まない」
低俗なものとされているからだ、四書五経をはじめとした学問の書を読むものだとされているのだ。
「しかしだ」
「それでもですね」
「隠れてな」
このことは陳にしてもだ。
「読んでいる」
「封神演義も」
「これは内緒だがな」
「ご安心下さい、狐は内緒話を漏らしません」
「ではな」
「はい、とにかくあの書に書かれていたことで」
それでというのだ。
「実際になんですよ」
「狐も仙人になれてか」
「千年修行してです」
「仙人になれるか」
「はい、そして私はです」
「仙人になる為の学問をか」
「している最中でもう生員になっています」
「及第はしているか」
試験にとだ、陳は生員と聞いてそれを察した。
「そうなのだな」
「はい、及第してはいます」
「最初の試験にはだな」
「そうです、もう野狐ではありません」
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