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経済侵略
第五章
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「多分な」
「そうですか」
「ああ、今そんなことを言ってるだろ」
 九十年代、この時代にだ。
「それで後はどうなるか」
「これからですか」
「ああ、俺達の子供は皆漫画を読むな」
「上のも下のもですよ」
 田中は笑って荒岩に答えた、彼の二人の息子達はどちらも漫画が好きだ。それで親子で時には取り合ってもいる。
「大好きですよ」
「俺のところもだ、上は男の子で下は女の子だがな」
「どっちの子もですね」
「ああ、好きだ」 
 漫画、それをだ。
「その子供達がそんな漫画を読んで大人になったらどう思う?」
「あの漫画馬鹿なことを言ってたですね」
「そう思うさ、現実を知らないで言ってるとな」
 それこそというのだ。
「馬鹿だし馬鹿にされるさ」
「日本の経済侵略だのアジア再侵略だの」
「経済活動、特に貿易や商売がそれだったらな」
「もう何でもかんでもですね」
「ああ、その原作者の漫画を海外で売ってもな」
 その国の言葉でだ。
「売りつけてるとかいうことでな」
「それは文化侵略ですか」
「そうなるだろ、本当にな」
「あの時の京大の連中もその漫画の原作者も編集もですね」
「そうしたこともわかってないんだよ」
「それで言ってるんですか」
「そうだよ、二十年位な」
 あの学生運動の頃からというのだ。
「そうした人間はな」
「二十年って長いですよ」
 その二十年を頭の中で思考として振り返ってだ、田中は話した。そう言って味噌汁をすすったが定食のそれの味は二十年前とは変わらない様に思えた。
「その間俺も部長補佐も」
「随分変わったな」
「よく見れば顔もです」
 二人のそれもだ。
「お互いあれですね」
「皺が増えたな」
「はい、髪の毛の量はそのままでも」
 それでもというのだ。
「白いものも増えてきて」
「腹も出たりな」
「してますしね」
「立場も変わったしな」
「ですね、お互いに」
 課長そして部長補佐に出世した、二十年の間に。
「俺達も」
「色々な考えも見方も変わったな」
「ですね、あの時の自動車なんてボロくて冷暖房もなかったのに」
「今はあるしな」
「デザインも変わってテレビなんて」
 これが最もだった。
「俺達の頃はまだ白黒ありましたしね」
「それもなくなったな」
「完全に、軽くなりましたしね」
「野球も巨人から西武になった」
「嫌になる程強いですね」
 八十年代からこの頃に至るまで野球はまさに西武の時代だった、その強さはまさに無敵であり西武の日本一を見飽きるまでだった。
「本当に」
「そう色々変わったな」
「世の中も俺達も」
「けれど連中の頭の中はな」
「あの時のままですね」
「何も見ていなくてな」
 二十年前に見たものを変えていないというのだ。

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