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リング
115部分:イドゥンの杯その二十一

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イドゥンの杯その二十一

「うっ」
「どうしたんだ?」
「どうやら時間のようです」
「時間」
「はい。お別れの時が来ました」
「どういうことなのだ」
「私は。既に実体はないのです」
 クンドリーは悲しい声でこう述べた。
「ですから。ニーベルング様に心を奪われることがなかった」
「実体がないとは」
「私は。もう死んでいるのです」
 クンドリーはその顔も悲しくさせた。
「死んでいると」
「はい。ですから陛下に早く来て頂きたかったのです」
「何故だ、何故卿が死んだ」
「運命によって」
 それが彼女の返事だった。
「運命」
「そうです、私がここで死ぬのも運命だったのです」
 その悲しい顔で笑みを作った。
「全ては。運命だったのです」
「一体このラートボートで何があったのだ」
「陛下」
 クンドリーはトリスタンに対して言った。
「それももうすぐおわかりになられることと思います」
「!?」
 トリスタンにもその言葉の意味はすぐには理解できなかった。
「もうすぐ貴方は一人の若い男を蘇られます」
「若い男を」
「そう、そしてその時こそ貴方の運命の歯車は回るのです」
 クンドリーの身体は次第に薄れていっていた。
「それをお伝えするのが私の最後の仕事でした」
 遂には顔も薄れていった。
「けれどそれもこれで終わりました。私の仕事は終わったのです」
「待て、クンドリー」
 トリスタンは薄れていくクンドリーを呼び止めようとする。
「私はまだ卿に聞きたいことがあるのだ」
 そう彼女に言う。
「ヴァルハラに行けば。何があるのだ」
「全てが」
「全てだと。それは一体」
「私が知っているのはここまでです」
 だがクンドリーは声までも薄れてきていた。
「そしてこの世に留まれるのももう」
「くっ」
「さようなら、陛下」
 彼女は最後に言った。
「また。運命の輪廻の中で巡り合いましょう」
「クンドリー、行くな!」
 だが彼にはどうこうすることも出来なかった。肉体がないのならイドゥンを使ってもどうにもなることではないからだ。諦めるしかなかった。
 クンドリーは完全に消えた。後にはトリスタン一人が残った。

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