巻ノ百三十三 堀埋めその七
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「真田には真田の武士道がある」
「何があっても生きて」
「そしてやるべきことを果たす」
「それで、ですな」
「お主も然りじゃ」
真田の家の者だからというのだ。
「決してな」
「軽挙妄動なぞせず」
「生きることじゃ」
無闇に腹なぞ切らずにというのだ。
「よいな」
「わかり申した、では」
「これから大坂はとんでもないことになるが」
「この城に留まり」
「そしてじゃ」
「最後の最後にはですか」
「果たす、必ずな」
幸村はもう講和の後、最後のことを考えだしていた。そのうえで講和が果たされるのを見届けた。するとすぐにだった。
幕府は三の丸の堀を埋めはじめた、大野はその状況を見守っていた。堀は昼も夜も埋められてすぐに完全に平となった。大野はそれを見て眉を顰めさせて言った。
「これで守りはな」
「はい、かなりですぞ」
治房は兄を咎める目で見つつ言ってきた。
「弱まりましたぞ」
「そうでるな」
「外堀も大阪の確かな護りであったというのに」
「わかっておる、しかしな」
「これで、ですな」
「講和じゃ」
それが成ったというのだ。
「戦も終わると茶々様が言われておる」
「そうであればよいですが」
治胤も大野を咎める目で見ている、このことは次弟も同じだ。
「果たして」
「何はともあれ三の丸の堀は埋められたからな」
「あくまでそれで、ですか」
「よしとしよう」
こう言うしかなかった、今の大野は。だが事態はここでこの大野三兄弟を含めた諸将が危惧した通りになった。
幕府は他の堀まで埋めはじめた、しかも城の壁や石垣、櫓や門といった秀吉が城の護りを考え抜いて築いたあらゆるものをだった。
取り壊しはじめた、これを聞いた茶々は仰天して叫んだ。
「何と、他の堀を埋めるだけでなくか」
「はい、櫓も何もかもをです」
「壊しておるのか」
「それは瞬く間に進み」
ここでも大野が茶々に話す。
「このままでは本丸の堀までもがです」
「馬鹿な、それでは護りなぞなくなるぞ」
このことは茶々もわかることだった、本丸の堀まで埋められればだ。
「完全な裸城じゃ」
「そうなるのも時間の問題です」
「すぐに幕府の奉行に聞くのじゃ」
堀の埋め立て等にあたっている彼にというのだ。
「よいな、それでは」
「わかり申した」
大野はこうなるとわかっていた、だが茶々にそれは言わず幕府の方に違約だと言った。しかし幕府の方は言われていると答えるだけでだ。
埋め立ても打ち壊しも止めない、大坂方はそれを歯噛みしつつ見ているだけだった。だがその彼等を見てだった。
兼続は自分もその作業を受け持っている、それで本丸の方を見てこう言った。
「そもそも堀を埋めることに頷くなぞじゃ」
「その時点で、ですな」
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