巻ノ百三十三 堀埋めその六
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「まことにな」
「そう言われますと」
「お主にもわかろう」
「はい、茶々様は総大将になられるべきではなく」
「大坂にもな」
「おられるべきではありませんでしたな」
また言った大助だった。
「何があろうとも」
「豊臣家、ひいてはご自身の為にな」
「左様ですな」
「そのこともわかっておられぬしな」
「では父上」
「いや、拙者は果たすべきことは果たす」
大助の怪訝な言葉に毅然として答えた幸村だった。
「例え何があろうともな」
「敗れようとも」
「戦にな、それでもじゃ」
「果たすことは果たされますか」
「敗れて滅ぶか」
幸村は大助に問うた。
「お主ならわかろう」
「はい、国破れて山河在りです」
大助は父に杜甫、異朝の唐代の詩人の詩で応えた。
「それで何もかもが終わりではありませぬ」
「そうじゃ、我等が生きておるならな」
「果たせますな」
「拙者はあの方との約を一日たりとも忘れたことはない」
その者の顔を思い出しつつの言葉だった。
「だからじゃ」
「何としてもですか」
「敗れようともな」
「必ずですな」
「それは果たす、その仕込みはしておいた」
「ご自身が西国に赴かれ」
「それで約をした」
その彼等と、というのだ。
「そうした」
「それは聞いておりますが」
「その相手を信じられるか、か」
「はい、そのことは」
「安心せよ、お二方共じゃ」
その彼等のことも答えた幸村だった。
「幕府については思うところがある、代替わりされた方もおられるが」
「あの方もですか」
「そうじゃ、だからな」
「いざという時はですか」
「果たせる、何なら本朝から出て琉球に逃れる」
こうすることもだ、幸村は既に考えていた。
「我等と十勇士がおればあの方をお護り出来る」
「琉球には幕府の目も届きませぬからな」
これは本朝ではないからだ、幕府はあくまで本朝のものでありそこから外に出ることは一切ないのだ。
だからだ、幸村もこう言うのだ。
「だからじゃ」
「いざとなればですか」
「琉球に逃れるぞ、しかしそれは最後の最後でじゃ」
「いざとなればですか」
「そちらに去る、その時は船も用意してもらってな」
「ここからですな」
「我等がお護りして逃れるぞ」
そうするというのだ。
「お主も生きよ、よいな」
「はい、真田の武士道は生きるものですな」
大助は幸村に確かな声で応えた。
「例えどうなろうとも」
「そうじゃ、しぶとく生きてじゃ」
「そしてそのうえで果たすべきことを果たす」
「それが真田の武士道じゃ」
「忍の様に」
「真田は元々山の民という」
ここで真田家の出自自体もだ、幸村は大助に話した。
「拙者も詳しいことは知らぬが」
「そうだったのですか」
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