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真田十勇士
巻ノ百三十二 講和その七

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「それがしも常に思っていますが」
「茶々殿をわしの正室にじゃな」
「そのお考えは今もおありですね」
「変わりない」
 秀忠にあっさりと答えた。
「それはな」
「やはりそうですか」
「しかしな」
「茶々様のお考えもですな」
「変わっておられぬ、どうしても大坂から離れぬわ」
「天下人の母だと思っているからこそ」
「それで動かぬ、それではな」
 最早と言うのだった。
「こうするしかないわ」
「講和の中にですな」
「細工をするからな」
「その細工にかけてですか」
「そうしてじゃ」
「どうしてもですな」
「大坂から出るしかなくすが。しかし」
 茶々の強情さ、頑迷さとも言っていいその気質を知っているからこそだ。家康は難しい顔になってこうも述べた。
「そうしてもな」
「それでもですな」
「あの方は去らぬかもな」
「あの城を」
「そうするかも知れぬ」
 こう言うのだった。
「あの強情さを思えば」
「鳴かせてみせよにしても」
「鳴かぬ不如帰もおるな」
「ですな、不如帰もそれぞれです」
 不如帰次第だとだ、秀忠も応えて言う。
「ですから」
「そして茶々殿はな」
「どうしても鳴かぬ、ですか」
「そしてその茶々殿が主だからな」
「大坂は今から我等の細工に乗り」
「出ざるを得なくなる」
 そうなってしまうというのだ。
「そしてそうなってもじゃ」
「出ぬやも知れませぬか」
「全く、大坂は実に厄介な主を持ったな」
「若しもです」
 正純がここで言うことはというと。
「関白殿ならば」
「うむ、おそらく既にな」
「大坂から出られていますな」
「関ヶ原が終わったならばな」
 最早その時点でというのだ。
「そうされておったわ、しかしな」
「そもそもですな」
「わしも天下を狙わなかったであろう」
 秀次が生きていればというのだ。
「その時はな」
「そうですな、あの方がおられれば」
「豊臣家もああはなっておらなかったであろう」
「ですな、せめてあの方がおられれば」
「間違ってもこうしたことになっておらんかった」
 戦にもというのだ。
「まだわかっておられた御仁だったからのう」
「茶々様と違い」
「そうじゃ、確かな方であったからな」
 政も戦も知っている者だったというのだ、そして茶々の様に意固地なまでに強情ではなかったというのだ。
「わしも江戸におったままやったやもな」
「そうでしたな、しかし」
「今は茶々殿じゃ」
 秀次はもう亡く、だ。
「そしてじゃ」
「その茶々様だからこそ」
「仕掛けてもな」
 細工、それをだ。
「大坂を手に入れられる様にするぞ」
「わかり申した」
「あと右大臣殿じゃが」
 家康は彼のことにも言及した、大坂の名目上の主である彼の。
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