よるの夢こそまこと
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時計を見る。予定よりも少し早く眠りから覚めてしまった。
「……あと五分もあればやっつけてやったのに、勝負は今夜までおあずけね」
そう都合よく夢の続きが観られるとは思ってない。が、そうつぶやかずにはいられない。
「やっぱ最初に逃げたのがまちがいよね。なんで立ち向かわなかったのかしら? 夢だってわかってたのにビビるだなんて、あたしらしくないわ」
現在中学二年生の香澄だが、小学生のころは男子たちにまざって遊び、とっくみあいのケンカもよくしたものだ。
「あの怪物、どっかで見たおぼえがある。『実際に体験したことしか夢に出ない』て聞いたことあるけど、なんかのアニメかゲームに出てきたやつかしら?」
テキパキと朝の準備をしながらひとりごちる。
両親が共働きで家に一人でいる機会が多いと、どうしてもひとり言が多くなってしまう。
タクシードライバーの父はすでに出勤。地元のテレビ局でリサーチャーの仕事をしている母は調べものがあるとかで、あちこちに行ったり来たり。今は家にいない。
軽く食事をすませ、歯をみがき、制服に着がえる。
ティートゥリーの香水を数回ふきかけ、唇にリップクリームを塗る。
それだけだ。
自由な校風でファッション誌から抜け出たような派手なメイクをする女子が多いなか、香澄のおしゃれは少し地味な部類に入る。
「それじゃ、いってきます」
だれもいない家の、だれもいない空間にそう言って家から出た。
香澄の住む三瀬浜という街は三方を海に、一方を山にかこまれた土地で、いまでこそ観光地としてそこそこ有名だが。昔は「陸の孤島」などと呼ばれた辺鄙な場所だ。
そのためなのかどうか。このあたりには平家の落人伝説をはじめ、徐福だのモーゼだのキリストだのが渡来し、骨をうずめた。
といったトンデモ系の話にはことかかない。
その手の話は香澄の大好物なのだが、あいにくと周囲の大人たちの喰いつきは悪い。
「どうせなら町おこしに利用すればいいのに。徐福とかゆるキャラにして売り出すのよ。あと最近はご当地アニメなんて流行ってるじゃない? そっち方面にアピールすれば、オタクの人たちが聖地巡礼に来て、にぎわうわよ」
「う〜ん、オタクの人たちがいっぱい来るのは、ちょっとイヤかも」
「なんでどうして? 自分だってオタクのくせに」
「あたし、あんなに濃くないよぉ」
「うどんつゆじゃないんだから、オタクに濃いも薄いもないでしょ。しいて言うならオタって時点でもはや濃いいのよ。関東風よ、江戸っ子よ」
「う〜、ならあたし、オタクじゃない……」
「はぁ!? アニメやゲームだけじゃ飽きたらず、今どきドリーム小説にはまったり、自分でも小説書いちゃうような娘がなに言ってるんだか。そういう創作系が好きな人って、
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