よるの夢こそまこと
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され、そこに徳利の中身がなみなみとそそがれる。
無色透明でトロリとした液体からは甘い香りがただよってくる。
「……いい匂い。これ、なんてお酒?」
「うむ、わが猩々(しょうじょう)の一族に代々伝わる、その名も猩々酒じゃ」
(そのまんまじゃない)
そうは思うが口にはしない香澄であった。
とりあえずひと口飲んでみる。
果実のようなほのかな甘みと、木の実を思わせる渋みが絶妙に組み合わさり、とても美味しい。
またアルコール特有のツンとくる臭いや口に入れた時の抵抗感がまったく感じられず、ひと口のつもりだったが杯の中身を一気に飲み干してしまった。
胃の中がほんのりと温まり、そこから幸せな気分が全身に染みわたってゆく。
「やだ、これ、すんごい美味しい……!」
思わずとろけた表情に。
「ふぉふぉふぉ! いい飲みっぷりじゃ。さぁ、もう一杯」
「うん、ありがと」
二杯、三杯と飲みながら話を続ける。
「おじいさ…、おじさんだれ? ここはどこなの? あ、あたし都祁(つげ)香澄っていいます」
「わしは楊。ここは魔界。カスミちゃんや、そんなことも知らずにここにおったのかい? あぶないのぅ。鬼や狒々(ひひ)やサテュロスにかどわかされてしまうぞい」
楊爺さんは香澄の胸から腰にかけてを、好色な目でなでまわすように見ながら、さらに酒をすすめてくる。
「ここってたしかにヘンテコなところだけど、あたしの魔界のイメージとかなりちがうかも。もっとこう大きなコウモリが飛びかってて、血の池とか火の森とかがある感じ」
「魔界は広くて深いんじゃ。そういう場所も探せばあるぞい」
酒の他にも先ほどの羊肉泡莫をはじめ、焼き鳥や川エビの揚げ物などを用意し、香澄の前にならべていく楊爺さん。そのさい妙に体に触れようとするのを絶妙な間隔で避ける香澄。
「ささ、まだまだ酒はあるぞい。おかわりするじゃろ?」
「うん、そうするぅ。他のお酒もある?」
「おお、あるともあるとも。これなんてどうじゃ? 八塩折(やしおり)の酒といってとても古い歴史のある酒じゃ。あとこれは杜康。もっと古くて由緒ある、わしの故郷に伝わる名酒じゃ」
いったいどこにこれだけ持っていたのか、次々と酒の入った小瓶やお銚子、竹筒を出してくる。
それらをひと口飲んでは肴をつまみ、また別の酒をひと口飲んでは別の肴をつまみ――。
なんとも贅沢な飲み方を続けているうちに、さすがに酔いがまわってきて良い気分に。
ふと周りを見渡して見ると、どうだろう。先ほどまでは音と気配しかなかった祭り場だが、大勢の人の姿が見えるではないか。
人。
たしかに人だ。二本の腕に二本の足をした人の姿をしている者が大半をしめている。角や牙
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