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柿の種
第三章
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 そしてだ、その者に言った。
「ではこれよりな」
「はい、柿をですな」
「好きなだけ食ってよいからな」
 笑みを浮かべて言うのだった。
「余にその食いっぷりを見せてくれ」
「そうさせて頂いて宜しいのですか」
「そうじゃ、柿は好きじゃな」
「大好きであります」
 実際にとだ、その者は家光に答えた。
「まさに柿なら幾らでも」
「そうか、ではな」
「これより食べさせて頂きます」
 家光の望み通り、それと共に自分も食べたいからだとだ。男は家光に答えてそのうえでだった。己の前に出された柿を。
 まずは一個あっという間にたいらげた、だがここで。
 家光は彼が柿を食ったのを見て驚いて言った、何故驚いたかというと。
「お主今種も食ったが」
「はい、それがし柿は種もです」
「食えるのか」
「この様に」
 男はまた一個食った、やはりこの時も種ごと食ってしまった。
「食えます」
「そうなのか」
「こうして」
 男は笑って三個目も四個目もだった。
 種ごとどんどん食っていった、そして噂に違わぬ食いっぷりを見せたのだった。
 家光は食い終えて満足している男にまずはこう言った。
「うむ、噂通りいや噂以上のな」
「食いっぷりでしたか」
「その食いっぷり確かに見せてもらった、褒美をやろう」
「有り難きお言葉」
「しかしじゃ」
 家光は褒美の話をしてから男に笑ってこうも言った。
「お主は種も食ったが」
「そのことはですか」
「これからは残す様にな」
 こう言うのだった。
「種は残して撒けばどうなるか」
「七年後には実がなる木になります」
「そうであろう、ならばな」
「種は残して撒いて」
「そうしてより多くの実を食せる様にすればな」
「よいというのですか」
「そう思うがどうじゃ」
「確かに」
 男も家光のその言葉に納得して頷いた、そのうえで将軍である彼に言った。
「これからは」
「そうするな」
「はい、そうしていきます」
「その様にな、実はこのことはな」
 家光は己の前にいる男にさらに話した、上座でくつろぎ気取らない様子で話していく。
「余も天海僧正に教えてもらった」
「あの百歳を超えているという」
「そうじゃ、あの者に教えてもらった」
「柿の種をですな」
「食したそれを撒けばな」
「七年後で」
「また実になる、それが天下の政であるとな」
 そこまで考えることこそがというのだ。
「百年の大計を考えるなら」
「七年先のことはですか」
「当然に考えるべきとな、だからな」
「わしもですな」
「そうせよ、これからはな」
「わかり申した」
「共に柿の実を多くしていこうぞ」
 最後も笑って言った家光だった、そして彼も後で柿を食しその種を撒いたのだった。天下の大計を考えつつ。

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