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琥珀色の喫茶店
琥珀色の喫茶店
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[9] 最初
、喜びに喉が塞がってしまった。
「ちょうど、読む機会があってね」
 そんな言葉を漏らしてしまう。彼女は何度もうなずき、私の本を叩いてみせた。
「とても主人公に共感できるような、素晴らしい作品よね。女性視点の物語なのに時折、男気のあるところを見せると言うか、主人公の気丈な人物像が本当に格好良いの。ストーリーの内容も、世間の荒波はすごいけど、とてもユーモアに溢れているし」
「ありがとうございます」
「彼女がデビューした頃から、ずっと読み続けているんだけど、今一番読みたい作家なのよね。まだまだマイナーな作家だけど、あなたのように読んでくれる人がいるとわかって、本当に嬉しかったわ」
 女性はそう言って空から氷の結晶が降り注いだような、綺麗な笑顔を見せる。私にとってそれは心の奥深くまで貫くほどに、大きな衝撃がある笑顔だった。そして、心を解き放ってしまうほどに穏やかさに満ちていた。
「じゃあ、お互いに彼女が賞を取るまで、見守っていきましょう!」
 彼女は大きな声でそう言うと、本を鞄に仕舞って、零れ落ちそうな笑顔を見せた。私は何も言うことができずに、薄らと霞んだ視界の中で、ただ溌剌とした様子を見守った。
 本当に太陽が弾けたような女性だ。
 私は小さく頭を下げて、「ありがとうございます」と聞き取れないような小さな声で囁く。すると女性はふと足を止めて、私へと顔を向けると、親しい友人に囁くようにつぶやいた。
「またこの店で会えるといいわね。それじゃあ、また!」
 女性は小さく手を上げて、颯爽と店を出て行った。彼女の残したコロンの香りだけがいつまでも涙に溶けていくようだ。それは彼女の言葉を反芻しているからか、全く消えることがなかった。
 透明な水に、琥珀色の息吹が吹き掛けられたように綺麗な色彩が心の隅々まで広がっていく。やがてそれは私の心にほんわかとした暖かさを与えてくる。何度も本を手に取ってしまった。
 ここまで私の作品を愛してくれて、その嬉しさに、どんな言葉も涙に溶けてしまいそうだった。彼女のような人がいるならば、私はずっと書き続けていけるだろうな……原稿用紙にペンを走らせながら、そう思った。
 私の作品を読んで、誰かが陽だまりを感じていられるように……そして私自身も、陽だまりに戻ってこれるように……その為だけに、私はいつまでも小説を綴り続けるだろう。
 それは琥珀色の蜂蜜のように、心地良いコロンのように、そっとただ優しく――。
 ペンを握る手がひとしずくを受けて弾け、心の淡い色彩に溶けていく。

 了

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