第五章 じょじょじょ
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も安くはないので」
「いひ、えやっ、おお、おれたちたちっ、ええ演技下手だからからっ!」
拝むような片手を、顔の前でぶんぶんぶんぶん振るうレンドル定夫。
言葉が聞き取れなかったのか、意味が理解出来なかったのか、敦子は黒縁眼鏡のあどけない顔に小さな疑問符付きの笑みを浮かべた。
「下手だから日数をかけて何千回でも録り直して、よい音声を選んで使おう。かような考えでいたのでござるよ」
トゲリンが補足する。
「ああ、なるほどですねえ。そういうことでござるか。じゃあ、とりあえずのところ、これからも発声のトレーニングだけはしっかりやって、どうするかは結果で判断しましょう、ということで、いまのところ部屋はこのままでいいですね」
そういうと敦子は元の位置へ戻り、座り直した。
「あたしの担当するキャラクターのこと、把握したいんですが。まずは主人公。どんなタイプの声にするか、もう一度、キャラの背景や関係性を整理したいので、設定資料を見せてください」
「あう、どど、どむどぞっ」
定夫はいわれるまま、印刷した資料を両手に持って敦子へ差し出した。
敦子は、定夫から受け取った資料をぺらぺらめくりながら、うーん、と唸った。
眼鏡を外し、レンズを拭いて、眼鏡をかけ直すとまた、うーん、と渋い顔。
ぽかんとしている三人の視線に気付くと、「すみません」と笑いながら頭をかいた。
「あたし一人では、『これしかないっ』って思える声がなかなか浮かんでこなかったので、考え込んじゃいました。……まず、主人公のほのかちゃんですが、どんな声にしましょうか」
「え」
問いの意味が分からず、定夫はきょとんとした顔になっていた。
誰だって、そうなるのでないか。
現にトゲリンも八王子も、不思議そうな表情になっている。
それはそうだろう。
どんな声もなにもない。もうタイプは決まっているのだから。
設定資料にだって、どんな性格なのかしっかり書いてあるわけで。
ただそれに従って演じればいいだけではないのか。
それとも演技の世界には、さらに進んだ、突き詰めた、なにかがあるというのだろうか。
そんな彼らの表情、疑問を察したか、彼女はにこり微笑み、答えた。
「声の出し方、といっても、色々とあるんです。性格が明るい、暗い、無邪気、大人、子供、とか、そういう分け方でひと括りに出来るものではないんです。性格と年齢、顔のタイプ、それが分かれば声が作れる、というわけじゃないんです」
分かったような、分からないような、いわれてみれば当然な気もするが、考えてみたこともなく……
定夫も、他の二人も、頷くことすらも忘れて黙ってしまっていた。
敦子はちょっと間を空けて、話を続けた。
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