第三章
[8]前話
「一体どういうことだ」
「何がどうなっている」
「将軍が宰相殿に謝罪されるなぞ」
「信じられないことだ」
「私めは宰相殿の深慮に気付かず浅はかな行いをしてしまいました」
これまでの自身の行いを恥じる言葉だった。
「どうかこの愚か者を気が済むまで仕置きして下さい」
「何ということだ」
「嫌っておられる宰相殿にそう言われるとは」
「あの誇り高い将軍が」
「とても信じられない」
誰もがこのことに驚いた、そして屋敷の中で廉頗の言葉を聞いた藺相如も驚いて屋敷から出て廉頗の前に出て言った。
「将軍、これは一体」
「今申し上げた通りです」
「これまでのことを謝罪されてですか」
「はい」
そのうえでというのだ。
「そうです、どうか仕置きを」
「それはしません」
藺相如は廉頗に強い声で返した。
「決して」
「それは何故でしょうか」
「私が将軍と同じお立場ならそう思ったからです」
廉頗と同じことをというのだ。
「だからです」
「そうなのですか」
「はい、ですから」
「私をですか」
「仕置きなぞしません、それに将軍が傷付かれては趙に害が及びます」
「そのこともあって」
「はい、仕置きなぞとんでもない」
藺相如は廉頗に必死に話した。
「どうか服を着て下さい」
「そうして宜しいのですか」
「どうか」
「かたじけない、私は宰相殿を誤解していました」
その深慮も人柄も知らなかったというのだ。
「まことに。これからは趙と宰相殿にこの命捧げましょう」
「では私もです」
藺相如も微笑み廉頗に応えて言った。
「趙、そして将軍にこの命捧げましょう」
「そう言って頂けますか」
「はい、ではこれより誓いを結びましょう」
藺相如の言葉からだった、二人は互いに終生の友となる誓いを立てた。これを見た趙の者達は一斉に喝采を浴びせた。
この話は史記にある、二人があるうちは秦も容易に趙を攻めることは出来なかった。趙の柱である二人が友である間は秦に対して劣勢な趙も国を守ることが出来た。そのことを考えると友情、人と人の結びつきも決して馬鹿には出来ないということであろうか。
刎頸の交わり 完
2017・9・22
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