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鬼妹
第一章
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                鬼妹
 鹿倉武は帰宅部だが毎日学校から家まで十キロの距離を走りかつ誰の相談にも快く乗ってくれるまさに快男児だ、だが。
 彼をよく知る者はいつもだ、こんなことを言っていた。
「あいつにも弱点あるんだよ」
「妹さんには勝てないんだよ」
「小学六年生の妹さんにはな」
「どうしても頭が上がらないんだよ」
「それはまたどうしてなのよ」
 その話を聞いた諸星玲菜は少し驚いて言った。
「あの鹿倉君が妹さんには頭が上がらないって」
「さあ、どうしてかわからないけれどな」
「それでもなんだよ」
「妹さんにはどうしても勝てなくてな」
「もう絶対服従らしいぜ」
「五歳下の妹さんにな」
「おかしな話ね」
 玲菜は首を傾げさせて言った、太い眉が目立つショートヘアは幼さが残る顔とあいまって小柄な身体に相応しい。
「あんな元気のいい子が」
「体力だってあるしな」
「面倒もよくて気風もある」
「そんな奴がな」
「何で妹さんにだけは勝てないか」
「確かに不思議だよな」
「どうも」
「不思議過ぎてね」
 それこそとだ、玲菜はまた言った。
「私訳がわからないわよ」
「それは鹿倉本人に聞くか?」
「あいつ自身にな」
「そうしてみたらどうだよ」
「そこまでしないけれど」
 本人に言えない事情があるのかと気を使ってだ、玲菜はそれにはと及び腰になった。
「けれどね」
「気になるんだな」
「何で鹿倉が妹さんだけには弱いのか」
「そのことがか」
「どうしても」
「五歳年下でしょ」
 それだけ年齢が離れていることをだ、玲菜は話した。
「相手は小学生で」
「しかも妹だな」
「立場圧倒的に上だな」
「それでどうしてか」
「確かに気になるな、それでどうして弱いのか」
「それも頭が上がらないって」
「しかもあの鹿倉がね」
 元気がよく気風もいい彼がとだ、とにかく玲菜はこのことが気になっていた。だが本人に聞くことも出来ず。
 どうにも困っていた、しかし。
 ある日玲菜はバイト先のドーナツ屋で仕事をしていた、するとの店にだ。
 何と武が来た、その横には小学生高学年位の女の子と男の子がいた。武はその二人に店に入るとすぐに聞いた。
「何食べたい、二人共」
「エンゼルショコラがいいわ」
「僕はオースドファッションにするよ」
 二人はそれぞれ武に答えた。
「飲みものは紅茶ね」
「私もそれにするわ」
「じゃあ俺はチョコレートのにして」
 武は二人の言葉を受けて自分が食べるドーナツの話をした。
「飲みものはコーヒーにするか」
「お兄ちゃんいいわね」
 女の子がここで武に強い声で言ってきた。
「食べる時はね」
「わかってるよ、お行儀よくだな」
「そうしてね、お兄ちゃんすぐにね」

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