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Raison d'etre
二章 ペンフィールドのホムンクルス
15話 進藤咲
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 しかし咲は動かない。
 じっと観察するように優を睨みつけるだけだった。
「進藤先輩?」
 背後から麗の震えた声。
 咲が小銃を構えたまま、一歩後ろに下がる。
「住民が一人も見つからない」
 ポツリ、と咲は呟くように言った。
 優は真意を測りそこねて言葉の続きを待ったが、彼女はそのまま黙り込んでしまった。
「……うん。何が起こってるのか、これから何が起こるか分からない。墜落した中隊員で合流して、ここから脱出するべきだと僕は思う」
「私はこの霧の中を無闇に移動する気はない」
 咲はそう言って、もう一歩下がった。
「わざわざ危険を犯す必要はない。桜井君たちは勝手に脱出ルートを探せばいい」
 優は麗を見た。麗が困ったような表情を返す。
「うん。分かった。進藤さんが僕達と合流する気がないなら無理強いはしないよ。大丈夫。安心して」
 咲は何も答えない。ただ銃口を向け、警戒心を露わにするだけだった。
「あの、じゃあ、僕たち行くね。進藤さんも気をつけて」
 咲を刺激しないように、ゆっくりと小銃を拾い上げる。
「僕たちがこのまま徒歩で霧から脱出できたら必ず救援部隊を要請するから待ってて」
 異常なまでの警戒心を見せる咲を少しでも安心させるために出来るだけ優しい言葉をかけながら、優は麗に目配せして、そっと咲の横を通り過ぎた。
 咲のすぐ横を通り過ぎた時、彼女の身体が大きく震えるのが分かった。
 彼女の荒い息遣いがはっきりと耳に届く。
 そのまま、咲を残してその場を去る。
 最後に後ろを振り返ると、濃霧に紛れて優たちを監視するように銃口を向けたままの咲と目が合った。
 その瞳には、敵意と怯えが同居しているように見えた。
 優はすぐに視線を外して、麗の手を取った。
 麗が驚いたように小さい声を出す。
 優は構わず、咲から距離を取るように足を早めた。
「あの、先輩」
 咲と十分な距離をとったところで、麗が口を開く。
「進藤先輩、様子がおかしかったです。ちょっと普通じゃないですよ」
「うん」
 優は足を止める事なく頷いた。
「小銃のセーフティーが外れてた。進藤さんは本気で僕達に銃口を向けてた」
 進藤咲の事を、優はよく知らない。
 第五小隊の小隊長で、狙撃を得意とするエース。知っている情報はそれくらいだった。
 彼女が他人と一緒にいる姿を、優は見たことがなかった。ずっと一匹狼なのだと思っていた。特殊戦術中隊ではよくいるタイプだ。他の第二小隊長の姫野雪や、第六小隊長の白崎凛も一人で行動している事が多く、進藤咲が一人で過ごしている事に今まで疑問を持つ事はなかった。
「進藤先輩、重度の人間不審なんでしょうか」
 麗の疑問の声。
 麗の手
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