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Raison d'etre
二章 ペンフィールドのホムンクルス
15話 進藤咲
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の不安を払拭する言葉を探した。
「避難場所に集まっているのかも」
 自分でも白々しい嘘だと思った。それでも、住民の死を認めるよりはマシな気がした。
 沈黙が落ちる。
 緊張で小銃を握る手に自然と力が篭った。
 そのまま住宅街らしき道を歩き続ける。
 五分ほど歩いたところで、優は足を止めた。
「国道だ。この道に沿って進めば高梨市から出られると思う。他の中隊員と遭遇する可能性も高いかも」
 住宅街を抜けた先に広がる大通り。
 何となく左側に向けて足を進める。
 麗は何も言わず、無言でその後をついてきた。
 ふと、足を止める。
「先輩?」
 麗の不思議そうな声。
 優はじっと目を凝らして、前方に小銃を構えた。
「そこにいるのは誰ですか?」
 霧の中に、うっすらと人影が見えた。
 優の牽制の言葉に、その影が揺らめく。
「返事がないのは、亡霊だからですか?」
 ゆっくりと足を進める。
「先輩、ダメです。下がりましょう」
 麗が怯えたように小声で言う。
 優はそれを無視して、また一歩前に進んだ。
「誤射したくありません。もし人間なら返事をお願いします」
 人影は答えない。
 霧の向こうで、じっとこちらを窺っているだけだ。
 優はゆっくりと上体を前に倒し、それから勢い良く地面を蹴った。相手の不意をつくように、一瞬で人影との距離を詰める。
「――――ッ!?」
 霧の向こうから、銃口が見えた。
 人間。
 それを理解すると同時に、叫び声が響いた。
「来ないで!」
 女の声だった。
 足を止め、霧の中から現れたその顔を見る。
「進藤、さん?」
 目の前には、警戒するように小銃を向けてくる第五小隊長の進藤咲がいた。
 どっと安堵に包まれる。
「良かった。全然返事がないから亡霊かと思って」
 力なく笑って、優は小銃を下ろした。
「進藤先輩?」
 後ろから恐る恐る着いてきた麗が驚きの声をあげる。
「うん。中隊員と合流出来て良かったよ」
 優はそう言って、咲に向かって足を進めた。
 それに合わせるように、咲が一歩後ろに下がる。
「来ないで」
 声は小さいが、拒絶の意思をはっきりと宿した冷たい言葉だった。
 予想もしなかった反応に、優は動きを止めた。
「進藤……さん?」
 咲は何も答えない。ただ油断なく銃口を優に向けたままじっとしていた。
 優は困惑したように咲を見た。
 そして、ようやく気づく。
 咲の瞳に宿るものは敵意だった。
 紛れもない害意が優と麗に向けられていた。
「あの、進藤さん。その小銃、下ろしてくれないかな」
 優はそう言って、自分の小銃を地面に投げ捨てた。

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