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Raison d'etre
二章 ペンフィールドのホムンクルス
13話 望月麗(5)
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 もはや隊列など存在せず、散発的な反撃が繰り返され、各個撃破される最悪の状況が中継映像の向こうで広がっていた。
 解析オペレーターが最適な撤退ルートを指示するが、イレギュラーなホムンクルの動きがそれを完膚なきまでに防いでいく。
「……オールロスト」
 無情な報告が司令部に響く。
 気がつけば、神条奈々は手持ちの駒を全て失っていた。
 ホムンクルスは更なる侵攻を開始するわけでもなく、ただ高梨市の占領を誇示するようにぽつんと空に浮遊している。
 特殊戦術中隊の投入自体が悪手だったのではないか、と奈々は自問せざるを得なかった。
「加奈、生存者の索敵を」
「ESP反応は霧のせいで一切確認出来ません。音声信号なども確認出来ません」
「陸上自衛軍による生存者の捜索は?」
「統幕、および戦略情報局で協議中です。内閣の承認もまだで……期待できません」
 奈々は中継映像を眺めた。
 上空でじっと動かないホムンクルスが映っているだけだ。中隊員の姿はどこにも見当たらない。
 奈々は呆然として、隣の加奈を見た。視線に気づいた加奈が、震える声で言う。
「…他の部隊を、第二分隊以降を投入しますか?」
 奈々はゆっくりと首を横に振った。
 あり得ない事だ。
 小隊長格及び桜井優のようなイレギュラーの全員を失ったのだ。
 戦力の逐次投入で解決出来るはずがない。
「……交通規制を広げる必要がある。ホムンクルスは容易にあの霧を拡大する手段を有している。陸上自衛軍に連絡を」
「はい」
「それから、残りの全中隊に出撃準備命令を。もしホムンクルスが高梨市の外へ侵攻を開始すれば、ただちに出撃出来るように準備だけさせなさい」
「はい」
「それから……」
 奈々はそれ以上の言葉を失って黙り込んだ。
 各小隊の頭を失ったのだ。もはや亡霊対策室に出来る事は少ない。
 じっと中継映像を眺める。
 考えなければならなかった。
 ホムンクルスの目的は何だ。
 何故、動かない。何を企んでいる?
 あの霧の中は、一体どうなっている?
「あ」
 不意に一人の解析オペレーターが放心するように呟いた。
 中継映像を確認すると、霧の中から上空に向かって一つの光が打ち上げられたところだった。
「ESPエネルギーです。第一小隊の桜井優のものです」
「優くんの?」
「はい。エネルギー波形は桜井優のものと一致しています」
「これは……恐らく生存信号ね。内部で生きている事を私達に知らせようとしているんだわ」
 奈々は中継映像を見ながら考える。
「この霧は、少なくともESP能力者の生存をただちに脅かすものではない。ただし、何らかの効果、例えば機械翼の無力化などで脱出が困難ですぐに出てこ
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