二章 ペンフィールドのホムンクルス
13話 望月麗(5)
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後退せよ」
しかし、命令を無視するように桜井優は逃げ遅れた少女たちを安全圏へ吹き飛ばしていた。
「優くん、何をしているの! 後退しなさい」
ついに霧の中へ消えていった桜井優を見て、呆然とする。
更に優を追うように第一小隊の長谷川京子が霧を目指して急降下していく。
「第一小隊、桜井優。第一小隊、望月麗。第一小隊、長谷川京子、第一小隊、安藤桃。合計4名のロストを確認」
解析オペレーターが霧に呑まれて反応の消えた4名の報告をあげる。
「ホムンクルス、高度上昇中。中隊に接近しています」
ホムンクルスが後退し終えた少女たちに肉薄している。そして、再びその大きな口を開き──
「すぐに高度を落としなさい! 総員、全力撤退! 戦闘区域からの離脱を命じる」
数人の姿が、ホムンクルスの撒き散らす霧の中に消える。
それを助けようとした数人が更に巻き込まれるのが中継映像に映った。
識別レーダーから次々と中隊員の反応がロストしていく。
それはもはや撤退ではなく、敗走だった。
「第四小隊、藤宮綾。第六小隊、東寺智ロスト」
解析オペレーターが次々と不明者の名を読み上げていく。
逃げるだけではなく、広がる霧を食い止める必要があった。
「凛! 最大出力で霧を吹き飛ばして!」
第六小隊長、白崎凛。
優が現れるまでは、最大のESPエネルギー出力量を誇るエースだった。
命令通り、白崎凛が小銃を霧に向け、ESPエネルギーを練り上げ始める。
次の瞬間、中継映像がフラッシュで一瞬見えなくなった。
桜井優に次ぐ巨大なESPエネルギーの波が凛から放たれ、マイクが強い轟音を拾い上げた。
『一部の霧の消滅を確認。高出力の広範囲攻撃は有効のようです』
凛の報告を示すように、徐々に正常に戻った中継映像では霧が大きく吹き飛んでいた。
「凛、高出力の攻撃で霧を吹き飛ばして前線を維持して。咲、狙撃でホムンクルス本体を止めて」
形成を立て直そうと、反撃を試みる。
その時、予想外の事態が発生した。
眼下に広がる霧が腕のように伸び、先行していた第六小隊長の凛の足を絡め取ったのだ。
『――これは』
凛の悲鳴じみた声が、通信機から響く。
『凛! 待って!』
凛を助けるように前に出た第四小隊長の舞に向かって、街を覆う霧から新たな腕が伸び始めた。
二人の小隊長が拘束され、エネルギー体の中へ引きずり込まれていく。
得体の知れない胸騒ぎが沸き起こった。
──小隊長格だけを選択的に狙っている?
「司令、ホムンクルスが!」
加奈の悲鳴。
気がつけば、ホムンクルスが本隊の上空まで迫っていた。
再度、その巨大な口から霧が吐き出される。
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