二章 ペンフィールドのホムンクルス
13話 望月麗(5)
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人間の脳の入力量を表した学説モデルと、亡霊が同じ形をしている。
明確には説明できないが、不穏で不快な話だった。
『これより、目標の亡霊をホムンクルスと呼称。ホムンクルスを本作戦による第一攻撃対象と決定』
ホムンクルスの周囲を旋回していた機動ヘリが戻ってくる。
『咲の狙撃を合図に総攻撃を開始せよ。狙撃準備を開始』
機動ヘリが安全圏に戻ると同時に第五小隊長の進藤咲に狙撃命令が下る。
優が振り返ると、光輝く隊列の中から小隊長格の識別灯を持った明かりが前に出るのが見えた。進藤咲だ。
中隊で最も狙撃能力に長けると噂される彼女が、ゆっくりと小銃を構える。
『撃て』
銃声が轟いた。
ホムンクルスが僅かに揺らめく。
『胴体部に命中。総攻撃を開始せよ』
『突撃!』
着弾と同時に48名全員が加速した。
ホムンクルスとの距離が一瞬で詰まる。
先頭を飛ぶ第一小隊長の華が指揮灯をつけた右手を上に振り上げた。攻撃命令だ。
それを合図に大気が爆発したかのような轟音が響き、ESPエネルギーの嵐がホムンクルス目指して降り注ぐ。
ホムンクルスの体がESPエネルギーの津波に翻弄されて、きりもみするのが見えた。
反撃が来る前にそのまま撃ち落とそうと、優は照準を覗いた。
その時、ホムンクルスの巨大な口の端が吊りあがった。
まるで、笑っているようだった。
引き金に当てた指が思わず固まる。
『攻撃中止! 総員、後退し――』
奈々の叫び声が聞こえた。
同時に、ホムンクルが物理法則を無視したかのような挙動で上昇を開始した。
突然のことに後退が遅れ、隊列が乱れる。
いくつもの識別灯が、バラバラに飛んでいく。
何が起こったのか分からなかった。
優はその場に静止して、上昇していくホムンクルスを見上げた。
ホムンクルの巨大な口が大きく開くのが見えた。物理的限界を超えて、口腔が全てを飲み込むように大きく広がっていく。
『後退せよ。繰り返す。後退せよ』
奈々の命令が、通信機の向こうで繰り返される。
高度を上げ続けるホムンクルスの口から、突如何かが吐き出された。
霧だった。
それは白流島や高梨氏一帯に広がる霧と酷似していた。
恐るべき速度で拡散していく霧が、上空から覆いかぶさるように広がってくる。
「──ッ!」
優は後退を諦め、逃げ遅れた少女たちの元へ方向転換した。
通信機の向こうで誰かがそれを咎めるのが聞こえる。しかし、優は止まらなかった。機械翼が嫌な音を立てて、切り裂いた風が唸り声をあげる。
優は更に速度をあげ、いまにも霧に飲み込まれそうな一人の少女の身体を強引に抱きしめた。
「きゃっ!」
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