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Raison d'etre
二章 ペンフィールドのホムンクルス
6話 秋山明日香
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 ほのかに甘い香りが優を包む。
 震えがぴたりと止まり、混乱していた優の意識は急速に現実へと浮上していった。
「華、ちゃん……?」
「大丈夫だよ」
 その一言を聞いた途端、全身から力が抜けた。心地よい安心感が全身に広がっていく。
 緊張の糸が切れたように、思考が白濁する。
 ふらっと身体が傾いた。
 まずい、と思った次の瞬間には華に身体を預けるようにして倒れ込んでいた。
 誰かの呼び声。
 そこで桜井優の意識は途切れた。

◇◆◇

 消毒液の香りがした。
 起きているのか眠っているのか、判断が出来ないほど思考に霧が掛かっていた。
 誰かの話し声がした。
「接近禁止命令が出ている対象がどうしてこの敷地内にいるの。こういった事態を避ける事が保安部の仕事でしょう」
「全面的にこちらの落ち度です。ただ、保護者の立場を持つ者に対して我々は強い権限を持ちません。我々は建前上、民間人に対して強く出る事が出来ない」
 女と男の声。
 一人は、軍医の秋山明日香(あきやま あすか)だった。治療中に何度か会った事がある。
 もう一人は知らない男の声だった。
「あのね、司法が接近禁止命令を出しているの。つまり、保護者ではなく加害者なの。お客様扱いする必要はないでしょう。敷地内にあんなのがウロウロしていたら子どもたちが混乱を起こして当然です」
 ぼんやりとした思考の中、視線を横に動かす。
 大柄の男がいた。クマみたいな後ろ姿が明日香に叱られ、小さくなっている。
 恐らく、亡霊対策室の警備を統括している保安部の責任者なのだろう。
 亡霊対策室は実働部隊であるESP能力者よりも、それを支援する職員の方が遥かに多い。
「この子たちはいつ戦闘に駆り出されるのかも分からないのよ。常にメンタルをニュートラルに保つ必要がある。二度とあの保護者を敷地に入れないように」
「はい。再発防止に努めます。ただ、親である事に変わりないのではありませんか。本当に門前払いが――」
 クマのような男はそこで言葉を切った。それから、ゆっくりと優の方を向く。
 目が合った。
「すまない。起こしてしまった」
 男はそう言って、不器用そうな笑みを浮かべて立ち上がった。
「話はまた後で」
 明日香が小さく言うと、男は小さく頷いてそのまま部屋から出ていった。
 医務室に優と明日香だけが取り残される。
 優はぼんやりと明日香を見た。まだ頭が上手く動かない。
「落ち着いた?」
 明日香が優しく問いかけてくる。
 答えようとするが、上手く声が出なかった。
 だから、代わりに頷く事にした。
「そう。どうせ後は寝るだけでしょう。今日はここで休むといいわ」
 優は頷く代わりに目を
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