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Raison d'etre
一章 救世主
14話 広瀬理沙(4)
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り特殊戦術中隊に対する攻撃意志があったということなります。広瀬さんは殺人の容疑だけでなく、安全保障上の危険分子として認識されてしまうかもしれません。僕が撹乱手段を行えば、広瀬さんはもう引き返せません。社会的に死ぬんです」
 どうしますか、と優は理沙に向き直った。
 理沙の顔に、徐々に険が混じり始める。
「それは、脅し?」
 優は首を振った。
「違います。何もしなければ、広瀬さんは見つかります。僕が撹乱手段を取れば、この場は切り抜けられます」
 理沙は何も言わない。優は言葉を続けた。
「信じてください。僕だって、短期間だけどそれなりの訓練を受けている身です。広瀬さんと戦う選択肢だってありました。そうしなかったのは、広瀬さんの事が気になったからです」
「何故? 同情?」
「初めは、好奇心でした。僕とそれほど歳が変わらない人が、何でESP能力を人に使ったんだろうって。それで、話してるうちに、何だかよくわからなくなってきました。広瀬さんは、多分、社会的に保護されない存在です。司法では、どうする事もできない。政治的な影響力が強すぎるから。だから、せめて、力になりたいって」
「……人を殺した」
「裁くのは司法です。でも、それを判断する司法は、多分正常に働かないです。そんな状況で広瀬さんが捕まって、不当に裁かれるのは納得できないです。正しくないのはわかってますが、状況が変わるまで逃走を支援したいです。それで、いつか今の体制が良くなったら、自首して、ちゃんと法の下で裁かれるべきです」
 自分で言っていて、酷く子どもじみた考えのように思えた。
 しかし、理沙はじっと優の瞳を見つめ、頬を緩めた。
「理沙、でいい」
「え?」
「私は社会的に死ぬ。人としてはもう生きられない。姓はもう必要ない」
 それから、理沙は小さく息を吸い込んだ。
「私はハーフとして生きる。覚悟はできてる。だから、手伝ってくれないか?」
 理沙は笑っていた。迷いはもうないようだった。
 優は頷き、右手をかざした。
「全方位に無数のESPエネルギーをばらまきます。その密度が薄くなる前に、逃げてください」
 ESPエネルギーが右手に収束し、周囲の闇を照らし出す。
 そして、その光は突然爆発するように膨張を始めた。光の渦が音も無く優と理沙を飲み込んでいく。
 廃ビルのフロア全体を包むほど膨張した時、それは何の前触れもなく弾けた。無数の光の塊となって、空へと散っていく。
 同時に、理沙が駆け始めた。優の放った撹乱手段に乗じて、その姿が暗闇の中に溶けていく。
 優はそれを見送ってから、自分の役割を果たす為に走り始めた。
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