一章 救世主
10話 宮城愛
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無事に撮影を終えた優は疲れた顔で自室に戻った。
騙された。少しでも恵を信じた自分が馬鹿だった、と優は深く悔いた。
恐らく、恵の本職は記者というよりも撮影関係なのだろう。恐ろしく細かい指示を長時間出され続け、撮影に当初予定していた倍以上の時間を消費した。精神的な疲労が酷い。
ぐったりとベッドに倒れこむ。そのまま優は目を閉じた。
そして、取材の時に感じたある事を思い出す。机に突っ伏した時に感じた言い知れぬ喪失感。
――高校生活。
その言葉が、今は遥か遠くの別の世界の事のように思えた。
寝がえりを打ち、ぼんやりと天井を見上げる。
その時、ノックが響いた。
「どうぞ」
身を起こし、返事する。
ドアが開き、ラフな格好をした京子が顔を覗かせた。
「ばんわ!」
「夜に男の部屋訪ねるのはどうかと思うんだけど」
時計を見て、優は呆れた。既に十時を超えている。
「あのねー、ここ女の子しかいないんだから、そんなこと言ってたら桜井はこれからずっと一人で夜過ごすことになるよ」
「……正直、暇してました」
「素直でよろしい。で、談話室に数人で集まってるんだけど来ない?」
あんたの知ってる人だけだから安心して、と京子が付け足す。
優は顔を綻ばせて頷いた
「是非!」
そう言って立ちあがる。京子は笑みを浮かべ、ついてきて、と言葉を残し部屋を出た。優も慌てて京子の後に続く。
談話室は寮棟の各階にある。セキュリティゲートを通り抜けるわけではない為、認証ログからそこでの交友関係などが漏れることはない。つまり、奈々に夜に男女が会う事を注意されるような心配はしなくていい。
廊下の突き当たりにある談話室に近づくと騒がしい声が廊下まで聞こえた。京子が慣れた様子で中に入っていく。後から続いた優はそろりと顔だけ覗かせた。
かなり広い部屋にソファと円形のテーブルがいくつか設置され、十数人の女の子がグループごとに固まっている。壁際には三つの自販機が並んでいた。
女性しかいない為に少し入りづらかったが、優は意を決して中に足を踏み入れた。
「あ、桜井君!」
奥にいた華がすぐに気付き、声をあげる。優は小さく手を振って、華たちのグループへと向かった。
そこには比較的見慣れたメンバーがいた。第一小隊の篠原華、長谷川京子、そして華と京子の友人である宮城愛。それと第四小隊長の黒木舞の四人だ。時間のせいか、全員がラフな格好をしてる。
優はまだ宮城愛とまともに喋ったことがなかった。会ったことは何度もあるのだが、大人しいというより徹底した無口で話しかけづらい雰囲気を纏っている。逆に舞は気さくなタイプで、今までに何度も話す機会があった。
「こんな休憩場所あったんだね」
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