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Raison d'etre
一章 救世主
9話 橋本恵
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「戦争に突入せざるをえなくなった構造を何とかしないといけないと思います」
 恵が少し驚いた顔をする。
 しかし、彼女はすぐに笑顔を繕って、質問を続けた。
「じゃあ次は――」

◇◆◇

 順調に三十ほどの質問に答え、ようやく優は質問責めから解放された。
 思っていたよりも疲れる。背伸びすると、腰からパキッと小気味の良い音が聞こえた。
「お疲れさま、と言いたいところだけど、次撮影お願いね!」
「……そういえばそんな話もありましたね」
 思い出したくなかった事を言われ、げんなりする。
 優はため息を吐いて、机に突っ伏した。
 少し、懐かしい。学校に行っていた頃は退屈な授業中によくこうやって寝たものだ。亡霊対策室に来てからは机に座る機会が食事以外に殆んどなくなってしまった。
 普通の生活とは違うんだな、と思うと寂しいような、悲しいような何とも言えない気持ちが渦巻いた。
「とりゃっ」
「わっ!」
 不意に頬に冷たいものが触れ、優は大きく飛び退いた。見ると、缶ジュースを持った恵がクスクスと笑っている。
 優は無愛想に感謝の言葉を述べて、それを受け取った。
「桜井君」
 突然、恵の声色が変わる。慈悲に満ちた、柔らかな声。まるで別人のようで、優は驚きの表情を隠せず、恵の顔を見つめた。
「これ」
 そう言って、彼女は名刺を取り出した。反射的に受け取り、目を通す。
 肩書きはフリーライターになっていた。それと連絡先が載っている。
「困った事があったら何でも相談して。これから先、外部の協力者を得るのって難しいと思うから。あ、夜なら雑談電話もオッケー」
 優は、じっと恵を眺めた。そして、信頼に値する人だと確信する。もしかして、奈々は取材を理由に、優に外部とのチャネルを持たせたかったのではないか、とふと思った。
「じゃ、撮影行こうか」
 恵がドアに向かって歩き出す。
 優は名刺をしっかりと財布の中にいれ、「はい」と小さく返し、後を追った。
 廊下には三人の男が待機していた。恵は男たちに合図した後、優に向かって着いてくるように手招きし、少し離れた部屋に向かった。
 その部屋の一角には、撮影用の照明器具や白い背景が設置されていた。男達が手際よく準備を始める。優が困ったように視線を恵に向けると、恵は手に持った布を前に差し出した。
「はい。これ、衣装」
「衣装?」
 優は戸惑いながらそれを受け取った。
「撮影用のね。私は外に出てるから、その間に着替えて」
 そう言って、恵はさっさと部屋の外に出て行ってしまった。残された優は準備を進める男達を見た後、部屋の隅で邪魔にならないよう着替え始めた。
 恵から受け取った衣装は、軍服のようだった。深い緑色の、コ
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