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Raison d'etre
一章 救世主
9話 橋本恵
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罪者ちっくだなぁ」
 そう言って恵はコロコロと笑った。
 対照的に、変わった人だなぁ、と優の顔が引きつっていく。
「うーん、じゃあさ、ちゃちゃっと終わらせちゃおうか」
 ごそごそと、恵が鞄を漁り始める。何をしているのだろうと優が首をかしげると、恵は手帳とボールペンを取り出した。
「これからいくつか質問するけど、嫌な質問には答えなくていいからね。これ、他から頼まれたもんだから、遠慮なく切っちゃって」
「他からって……代行ってことですか?」
「そう。奈々に頼まれちゃって。各新聞社とかの質問をまとめて私が聞くの。あからさまにデリカシーのない質問は私が勝手に落としとくけど、個人的に答えたくないのもあるだろうから、ね?」
「神条司令の……」
 どうやら恵は奈々の知り合いらしく、優は少し気が楽になるのを感じた。
 確かに、新聞社の人たちに質問責めされるよりはいい。裏で色々と場を整えてくれた奈々に優は感謝した。
「じゃ、一つ目。初陣で大活躍したらしいけど、怖くはなかった?」
「ええっと、もちろん怖かったですが、それよりも必死な感じで……何とか我慢できました」
 つっかえながら、かろうじて答える。恵はうなずいて、軽快にペンを走らせた。
「じゃ、次。特技は?」
「えっと、あの、……空を飛ぶことです」
 咄嗟に浮かんだことをいうと、恵がクスりと笑った。
「うん。良い答えだ。次は……」
 恵の顔が曇る。少し迷っているような素振りだった。
「……戦争についてどう思う?」
 亡霊との闘いは、戦争とは呼ばれない。わざわざ戦争という表現が使われている事で、十六歳の優でもその答えが政治的に利用される類いのものだとすぐ理解した。
 望まれている答えはこうだろう。
『戦争はとっても悪いことです』
 恐らく何かのドキュメンタリー番組で、戦争に投入される子どもの本音、として使用されるのだろう、と思った。確かに根元的な思考を放棄して、子どもを使って感情に訴えかけることは最も効果的な方法だ。
 優は、頭の中が急速に冷えていくのを感じた。
 第二帝国主義が終わった今、戦争というものはただの浪費でしかない。ユーラシア連合やヨーロッパ連合と多くの経済圏ごとに連携を強めている中、実際的な戦争というものは起き得ない。あるのは、ユーラシア連合による小国の弾圧のみ。そして、ユーラシア連合は経済的解放運動と称して、これを正当化している。日本はユーラシア連合には加盟していないが、地理的な特性上、それに強く反発する事ができない。
 戦争を起こすのは、経済的な疲弊から大国への反発が強くなり始めている小国でしかありえない。この質問がどういった視点から利用されるのか透けて見えた。
 少し考えた後、優は恵の顔をじっと眺めた
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