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Raison d'etre
一章 救世主
8話 長谷川京子
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た理由が大体理解できる」
「個人技能の習熟というのは、優君を切り札にする為ですか? そして、その戦果をプロパガンダにフィードバックする?」
 加奈の推測に対して奈々は、どうかしら、と否定的な態度見せた。
「その逆かもしれない。優君以外の中隊員の個人技能を上昇させる事で、彼の影響力をコントロールできる範囲に抑えようと考えている可能性が高い」
 統合幕僚監部、及び戦略情報局の望みは安定した戦力の供給だ。彼らはシステムに組み込まれた救世主を求めているが、コントロール不能な爆弾を抱え込むつもりはない。
「司令……どうするんですか?」
「カリキュラムの変更については実務に悪影響が及ぶ可能性があるとして抗議する。でも、プロパガンダに関してはこちらに拒否権はない。もう四幕の間でシナオリが作られてしまっている。後は、何とか細かな要求を付け加える事しかできない」
 奈々は唇を噛んだ。
「少し、風に当たってくる」
 加奈に言葉を残し、奈々は司令室を出て、当てもなく無機質な白亜の廊下を進んだ。
 脳裏に一人の少女の姿が浮かぶ。人前では気丈に振る舞い、陰で泣いていた孤独な少女。
 ──柊沙織ひいらぎ さおり。史上初のESP能力者。そして、ESP能力者発見後の初めての戦死者。
 マス・メディアに救世主としての役割を与えられ、その役割に殉じた十六歳の子ども。
 当時、奈々は一切の感情を殺し、効率を求める事こそが強さだと信じていた。そして、その結果柊沙織は死んだ。奈々は彼女を助けられなかった。奈々の指揮こそが、彼女を殺す事に繋がった。
 史上初のESP能力者。そして、史上初の男性ESP能力者。一人の少女と、一人の少年の笑顔が頭の中で重なる。二人が持つ雰囲気は、酷く似通っていた。恐ろしい程までに。
 過ちを繰り返してはいけない。その為に、奈々はこのポストに留まり続けているのだ。来るべき日の為に。
 奈々は、どこに向かっているのか自分でもわからないまま、長い廊下をゆっくりと歩き続けた。
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