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Raison d'etre
一章 救世主
4話 佐藤詩織
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 司令部に問い合わせようかと迷った直後、端末が鳴る。出撃命令。
 詩織は硬い表情を浮かべ、出撃準備室へと向かった。

◇◆◇

 出撃準備室の中、優は慣れない手付きで戦術飛行に利用する機械翼を装着していた。それが終わると機械翼の両翼端についた識別ライトの点灯を確認し、武装のチェックに移る。
 手伝ってくれる人はいない。唯一の男性である優は他と区別されている。優は訓練を思い出しながら、武装のチェックを丁寧に終えた。
「異常ありません。準備完了しました」
『指示があるまで待機してて』
 出撃準備室の隅に設置されたカメラに向かって報告すると、奈々の命令が返ってくる。
 騒音とともに、ハッチが開き始める。その向こうに広がる夜空に優は息を呑んだ。
 夜間飛行の訓練は片手で数えるほどしかやっていない。正直に言えば不安だった。
『第四小隊出撃完了。次のカウント開始。二十、十九……』
 解析オペレーターの言葉に合わせ、機械翼に動力源であるESPエネルギーを送る。機械翼が展開し、横に大きく広がった。腰を落とし、飛行準備態勢を取る。
『八、七……』
 深く息を吸って、吐き出す。不安はあるが迷いはない。
『三、二、一、出撃!』
 一拍おいて、優は地を蹴った。同時に機械翼が翡翠の光を纏い、輝きを放つ。重力から解き放たれ、優は勢いよく夜空に舞い上がっていった。
 秋の夜風が少し肌寒い。前方には光の群れ。衝突を防ぐための識別ライト。更に小隊長格や分隊長格はサインを出す為、腕に独自のライトを装備している。
『速度、高度ともに問題なし。そのまま真っ直ぐ。衝突だけはしないように注意してね』
 奈々の言葉に優は前後の距離を確かめた。問題ない。
 そのまま優たちは隊列を乱さず夜空を飛び続けた。何もない夜空を飛び続けると時間間隔が麻痺していく奇妙な感覚に襲われた。一時間近く飛んだ気がした頃には、流石に緊張感や不安感が薄れてきた。訓練で教わったことを一つ一つ丁寧に、冷静に思いだし、整理する。何も不安に思うことはない。ただいつも通りにやるだけだ。
『衝突予測点まで後五分。各員、兵装確認』
 奈々の言葉に、全員が一斉に小銃や連結ベルトの状態を確認する。優もその例にもれず、淡々と規定通りの確認を行った。
『数は向こうの方が上よ。相手は大きく横に広がってる。呑まれないように細心の注意を払って』
 夜空の彼方に敵影が見える。闇夜の中、不気味に紫色の光を放つ姿は、亡霊という名に相応しいものだった。
『構え。射程まで五〇〇……四〇〇……三〇〇……』
 小銃を持つ手に汗が滲む。しかし、不思議と頭の中は冷静で冴えていた。恐怖はない。意識を集中させ、奈々のカウントに耳を傾ける。
『二〇〇……一〇〇……撃て!』
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