一章 救世主
2話 篠原華
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、今でも解決される見通しが立っていない。
「第三分隊、第一分隊の援護を」
第一分隊の後退を支援しようと第三分隊が前進する。
「──司令、間に合いません」
長井加奈の焦燥感の混じった声が横から届く。
中継映像には、追撃をしかける亡霊を何とか抑える第一小隊長、篠原華の姿が映っていた。そして、その側面を奪った亡霊が死角から迫っているのが中継映像に映る。華は目の前の亡霊の相手に必死で気付いていない。
第三分隊と第一小隊の距離は四十メートル。とても間に合わない。
「華、離脱しなさい」
奈々の言葉に華がようやく死角を取られたことに気づいて、攻撃を中断する。しかし、この時既に亡霊との距離は致命的なまでに詰められ、最早回避行動が何の意味も成さない状況に陥っていた。
負傷は避けられない。奈々が機動ヘリに回収命令を出そうと口を開きかけた時、中継映像を一つの影がよぎった。次の瞬間、華の側面から接近していた亡霊の体が消し飛ぶ。淡い霧のようなものが空中に拡散した。
「ロスト!」
解析オペレーターが叫ぶ。
奈々は中継映像に映る影を見て、目を大きく見開いた。影の正体は後方で待機している筈の桜井優だった。優が華に肉薄していた亡霊を片づけた後、近くにいた二体の亡霊の反応がロストした。その後も、ESPレーダーから次々と亡霊の反応が消えていく。
奈々は桜井優の様子を眺めながら、得体の知れない高揚感が湧きあがってくるのを感じた。
神条奈々が若くして亡霊対策室の総司令官に抜擢されたのには、いくつかの特殊な経緯がある。亡霊の出現は日本の国防を脅かす存在であり、日本は防衛関係費を拡大させる必要があった。しかし、日本にとって、軍拡は非常にデリケートな問題である。第二次世界大戦における敗戦国としてのイデオロギー。加えて、中国、ロシアを中心とした経済統合体であるユーラシア連合を刺激する恐れがあるとして、慎重論が根強く展開された。
つまり、人類史上初となる人間以外の外的な脅威である亡霊よりもユーラシア連合における軍拡競争への配慮、屈折した平和主義を優先する者が数多くいた。そうした世論を背景に創設された亡霊対策室は少しでも「軍」といったイメージを和らげるため、亡霊対策室の司令官に女性を起用することが決定された。後にこれは軍の予想以上の効果をあげることになる。
また、トップに女性を起用することにはもう一つ利点があった。亡霊に対抗できる唯一の存在である超感覚的知覚を保持したESP能力者がどういうわけか全て女性だったのだ。亡霊対策室が設立された際に確認されていたESP能力者は二百三十一人。その全てが女性で、九割が未成年だった。
亡霊対策室の前途は多難だった。戦闘経験も人生経験もない少女たちをまとめあげ、過酷な戦闘によって傷
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