暁 〜小説投稿サイト〜
Raison d'etre
一章 救世主
2話 篠原華
[8/11]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
撃を部下に命じた。先ほどの大規模な砲撃とは異なる、散発的な攻撃が始まる。
 第一小隊の突撃を皮切りに場は一気に混沌としたものへと変化した。近接戦闘によって味方と亡霊が入り乱れ、それを突破した亡霊たちが背後の分隊に襲いかかる。数が勝っているにも関わらず、徐々に前線が崩れていくのがわかった。
「第一分隊、後退。無理に抑える必要はない」
 命令を、飛ばす。
 第一分隊は、後退しない。
 浸透した亡霊を迎え撃つ為、後方支援が断たれていた。離脱する機会を逃がした第一分隊が徐々に孤立を始める。
「繰り返す。第一分隊、後退。第二分隊、支援しろ」
 奈々の命令で、ようやく第二分隊が事態に気付いて支援攻撃を開始する。
 遅い。
 その間に、敵左翼が第二小隊の攻撃を無視して、第一小隊の左側面をとった。その距離、僅か六十メートル。第一小隊の中でも前線を支える為に突出した第一分隊が完全に孤立し始める。
「呑みこまれる! 後退! 後退しろ!」
 ようやく、状況に気付いた第一分隊が無理矢理離脱を始める。が、敵右翼は第一小隊を逃がすまいと執拗な追撃を繰り返す。第一分隊の後退速度が急速に落ちた。その間に敵左翼が左側面から急接近を始める。
 奈々は唇を噛んだ。数は勝っている。しかし、それだけだ。相手の出方は分かっていたのに、それを止める事が出来ない。それは亡霊対策室の保持する実働部隊、特殊戦術中隊の厄介な性質の為だった。
 亡霊は、あらゆる物理干渉を受けない。銃撃も、弾道ミサイルも、亡霊の前には意味をなさない。実体がない、と言われている。見る事も、映像に記録する事もできる。なのに、その存在に干渉することができない。少なくとも、経験的にそう解釈されている。しかし、観測はできる。映像の記録に加え、亡霊の存在する周囲にはいくつかの異常な現象が発生する。それを用いて、亡霊の発生を探知することが可能となった。また、その異常を引き起こす何らかの未知のエネルギーが存在すると仮定されるまでに至った。
 その後、この探知技術に亡霊以外の存在が引っかかった事をきっかけに、事態は好転する。亡霊と同様の未知のエネルギーを持つであろう存在は、人間だった。後に超感覚的知覚能力者、ESP能力者と称される人間。彼らは、亡霊に干渉することができた。
 時間の経過とともに、多くのESP能力者が発見された。彼女たちを特殊戦術中隊に組み込む事によって、日本国は亡霊との闘争を開始した。だが、ESP能力を保有する人間の数は圧倒的に少なく、亡霊に対抗する為の充分な戦力を確保することができなかった。加えて、戦闘経験のない一般人を利用する事、従来の戦争とは異なる為に充分な運用ノウハウが蓄積されていない事が重なり、軍隊としての錬度が著しく低いまま前線に投入される事となった。その問題は
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ