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Raison d'etre
一章 救世主
2話 篠原華
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 はなが指揮をとって、小隊の動きを制御していた。華は亡霊対策室に入って二年目の中堅組であり、その従順性と機転の良さから奈々は華を重宝していた。
 第一小隊、第二小隊の距離は順調に縮み、衝突予測ポイントの五キロメートル前で二つの小隊は横に並んだ。奈々は停止を命じ、ヘッドセットに向かって叫んだ。
「優君、柚子ちゃん」
 奈々は少し砕けた喋り方で、今回が初陣の優と柚子を安心させようと語りかけた。
「亡霊は、外見ほど恐ろしいものではない。訓練通りに行動すれば難なく倒すことができます。大事なのは、パニックに陥って状況判断が狂う危険を絶対に避けること。限界だと思ったらすぐに戦線から離脱しなさい。それは恥ずべきことではない」
「はい」
 二人の新人が緊張した声で答えた。奈々は少し思案して、時計を見た。衝突予測ポイントまで後三分。
「時間よ。各自、兵装チェック。高度維持。敵右翼突出。構え」
 青空の彼方に影が現れる。奈々はESPレーダーを見て、淡々と情報を伝達させた。
「敵影二十三。方位二-八-五。依然として敵右翼突出。敵左翼、更に外側へ移動。敵右翼は囮の可能性が大きい。敵左翼の迂回に気をつけて」
 中継映像に亡霊の姿がはっきりと浮かんだ。紫丹の巨大な羽を大きく揺らし、醜悪な顔にぱっくりと開いた巨大な口。その悪魔的な姿は、まだ戦闘に慣れていない隊員たちの気力を急速に奪っていく。
 第一小隊が小隊長の篠原華の指揮で敵右翼を迎え撃つように前進していく。第二小隊は第一小隊の側面を守るよう、左側に旋回した。
「距離三〇〇……二〇〇……一五〇……一〇〇」
 解析オペレーターがカウントを開始する。トップとの相対距離が百メートルを切った時、第一小隊長、篠原華が片手をあげて叫んだ。
「撃て!」
 第一小隊、総勢三十二名が構える銃口が弾けた。一拍遅れて大気が爆発し、轟音がつんざく。一斉に放たれたESPエネルギーの塊は巨大な奔流となって、敵亡霊軍の突出した右翼へと吸い込まれていった。
「命中を確認。一体ロスト」
 ESPレーダーから影が一つ消える。あれだけの大規模な攻撃を受けても、大多数の亡霊は依然として無傷のままだ。敵は人間ではない。怪物なのだ。
「距離五〇」
 第一小隊長、篠原華が頭上に上げた右腕を大きく回した。それを合図に第一小隊の前面に展開した少女たちが一斉に銃剣を構える。
「第一分隊突撃!」
 華が先頭に立って飛び出す。それにならって、第一分隊に所属する八人の少女が続いた。
「敵左翼、接近」
 長井加奈が緊張した声で報告する。奈々は刻々と変化するマップ情報を眺めながら、呟くように口を開いた。
「第二小隊、前進。挟め」
 第二小隊長がそれを聞いて、第一小隊の側面を取ろうとする敵左翼への射
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