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Raison d'etre
一章 救世主
2話 篠原華
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身体が浮き上がり、周りの水面が微かに盛り上がった。ざばあ、と水の落ちる激しい音が響き、身体が完全にプールから浮かび上がる。前方に華を抱えている為か、身体が前に傾きそうになり、優は慌てて姿勢制御に移った。
 姿勢が安定すると、優が予想した通り、プールサイドから女の声が届いた。
「オッケー。それじゃ、休憩入れながら後二〇セットやってみよう。身体が覚えるまでやらないと意味ないからね」
 二〇セットという言葉に、華の身体がピクリと反応する。優は奇妙な罪悪感に苛まれながら、華を抱いたままゆっくりと高度を下げ始めた。

「ごめんね」
 訓練が終わってプールサイドに上がった優は、華に向かって一番に軽い謝罪の言葉を口にした。
「え? な、なにが?」
 ウェットスーツだけになって戦闘服の袖を絞っていた華が不思議そうに振り返る。
「連結ベルト繋ぐ時、結構くっついたから。それと、篠原さんには関係ない訓練なのに、手伝ってくれてありがと」
「そ、そんな、謝らなくても大丈夫だよ!」
 華が全身で否定するように両手をぶんぶんと胸の前で振る。先程まで手に持っていた戦闘服が地面に落ちるが、気づいていないようだった。
「あの、ほら、中隊は女の子ばっかりだから、男の子と訓練するのあまり慣れてなくて! 嫌とか、そういうのじゃないから、その、ね!」
 一生懸命フォローしてくれる華に優はクスりと笑って、ありがとう、と繰り返した。
 それから、背後を振り返る。職員の一人が三脚とカメラを回収し、残った男と女が何やら紙に記録をつけている。
「これ、帰っていいのかな?」
「うん。戸締りはあっちの仕事だから。早く着替えて戻ろ!」
 華が駆けだす。優はその後をゆっくりと追いながら、戸口へ向かった。
 桜井優が初めて実戦を経験する九日前の話である。

◇◆◇

「装備の点検を怠らないで。焦らなくていいからしっかりと。華、準備が出来た人をまとめて」
 慌ただしい室内で、神条奈々は歩きながら部下に声をかけ回っていた。
「神条司令、優君の準備が整ったようです」
「そう。男の子は準備が早くて助かるわね。こっちはまだかかりそうだから待たせといて」
「はい」
 副司令である長井加奈の報告に頷き、奈々は部屋を見渡した。部屋、というよりも倉庫のような薄暗い出撃準備室であり、室内にいる部下全員が装備の点検途中だった。その部下は大半が未成年の少女である。彼女たちは、これから戦場へと送りだされる。数年前の社会通念に照らし合わせれば、子どもを戦場に送り出すことは許されなう事だったが、長引く闘いの影響で奈々のそうした倫理観は変質を遂げていた。
「第一小隊、準備完了。これより待機」
 慌ただしい集団から報告があがる。奈々は壁に備え付けられ
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