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Raison d'etre
一章 救世主
2話 篠原華
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るから、墜落した場合の対処方です。って口で言うより、実物見た方が早いかな。篠原さん、お手本見せてみて」
 女の言葉に華が頷いて、機械翼を展開させる。翼が大きく広がり、華の足がゆっくりと床から離れていった。そして、そのままプールの上空に移動していく。
 何をするつもりなのかと優がじっと華を見ていると、高度五メートルほどまで上がった華の身体が不意に落下を始めた。
 優が何か行動を起こす前に、華の身体がプールに落ちて水柱があがる。
「……篠原さん?」
 優が心配そうな声をかけた直後、水面から華の顔が飛び出した。戦闘服の両肩部分が膨れ上がっているのが見える。前期訓練過程で戦闘服の構造は理解していたが、実物を見るのは初めてだった。
「戦闘服にはああいう浮き袋がついています。着水直後にこのベルトを引き抜いてください」
 女が近づいてきて説明する。優はベルトの部分を確認して頷いた。
「では、一度やってみましょう。あ、ちょっと水が深いけど泳ぎは大丈夫ですか?」
「人並みには、大丈夫です」
 優はそう言って、機械翼を展開させた。駆動音。
 以前行った飛行訓練通りに浮き上がり、高度を上昇させる。そして、そのまま華のいるプールの上空にゆっくりと移動した。機械翼の動作は酷く安定していて、空を飛ぶという行為への恐怖感を払拭してくれる。この調子なら、高度一〇〇メートルでも大丈夫そうだった。
「落下する時は、背中からが理想的。君達はちょっと衝撃に強いみたいだから、首の骨を折る事はないだろうけど、姿勢制御には気をつけるように」
 プールサイドから女が叫ぶ。優はチラリと女を確認してから、機械翼の動作を完全に停止させた。次の瞬間、ぐらり、と身体が後ろに傾く。そして、強烈な浮遊感。
「……っ……ぁ!」
 姿勢制御などする暇もなく、優の身体は水面に叩きつけられた。水とは思えないほどの衝撃を受けると同時に、視界が気泡で覆われパニックを起こしそうになる。そして、プールが予想以上に深い事に初めて気づいた。
 考える余裕もなく、優は右手で肩のベルトを手探りで見つけ出し、それを力の限り引き抜いた。途端に両肩が膨れ上がり、上半身が急速に水面へ浮上を始め、身体が勝手に半回転する。
「……っは!」
 頭が水面から飛び出すと同時に、優は大きく息を吐きだした。それから、何度も大きく息を吸う。
「だ、大丈夫?」
 前方から、華が両手で水を掻いて近づいてくる。
「……大丈夫。ちょっと、驚いただけ」
 優はそう言って、下に目を向けた。
 深い。三メートルは超えていそうだった。実際の洋上は更に深く、波も高いのだろうと思うと、憂鬱な気分になる。
「次、連結ベルトいこうか」
 プールサイドから女の声。
「先に手本、見せて上げて
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