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恐怖を味わった高校生
恐怖を味わった高校生
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時の大本営発表では、『撤退中』とは言わず、『転進中』と呼んでいたが】 
 煙が立ち上る程に、こんがりと焼いた人肉を注文するのを、予め知っていたのだろう? 
 第一、古ぼけて得体が知れない喫茶店の正体は、一体、何なのだろうか? ――学校の理科室に、ぶら下がっている骸骨の模型に、皮を張り付けたようなママ。そう呼ばれていた奇怪な白髪の老婆の正体は?――
 更に、どうして、吉田さんは息子さんの自殺を事細かに、勉に話したのだろう? 挙句の果てに、なぜ、おぞましい姿を現したのだろうか? それは、勉が見た単なる「奇怪な夢」だったのだろうか? つまり、彼の単なる錯覚にしか過ぎなかったのだろうか? 今となっては、真相を知るのが恐ろしい気がしていた。頭には、無数の疑問符が渦巻いていた。
 でも、勉は、出来るだけ何も考えずにボンヤリしていたかった。

 勉のパーマをかけ肩まで伸ばしている濡らした黒髪が、半分程乾いた頃だった。
 背中に、まるで鋭い矢の先が突き刺さったようなとても痛い視線を、勉は感じた。
 それは、多くの人々の視線だった。恐る恐る振り向くと、陽炎≪かげろう≫の中に、軍服を着た人、国民服を着た人、着物を着た婦人、モンペ姿をしている女性、子供……が大勢いたのだ。              全員が防空頭巾を被っている。
 先程味わった恐怖が再来し、こんなにも暑いのに両足は音を立てて震えている。心臓の鼓動がドクン、ドクン、ドクン、ドクン……と大きくなるのを、感じた。
「お、お、俺に、何の恨みがあるワケ! そ、そ、そんな恐ろしい形相をして!」
 歯をガチガチ鳴らしながらも、大きな声を出し精一杯怒鳴った。しかし、皆は微動もせずに、恨めしそうな表情を顔に貼り付けたまま、無言だ。
「黙っていないで、何とか言ったらどうだ! 俺が、あなた達に何をしたって言うのだ? もうこれ以上、俺を怖がらせないでくれ!」 
 すると、恰幅の良い一人の軍人が、宙に浮いてスーと目前に近づいてきた。良く見ると、腰から下は千切れてなくなり、胴から鮮血がポタリ、ポタリ、ポタリ、ポタリ……と、したたっている。
 真夏なのに、真冬のような寒気が勉の全身を包み込んだ。
 戦争等で突然に死んだ人は、自分が死んだ事実を素直に受け入れる事が出来ない、と良く聞くが……。
「私達の魂を行くべき所に先導して下さい。お願い致します。後生ですから!」
 そのセリフが、キーンと痛烈に頭に響き渡った。
「でも、おかど違いだ。俺には、あんた達を、黄泉の国に導ける修行なんか積んでない! まだ高校生の俺よりも、今までどうして……霊能力を身につけた大人に訴えなかったのかい?」
 寂しそうな顔をして、ささやくような小さな声で、彼に語りかけてきた。
「何度も、何度も、頼んだのですが無視されたのです。多分、私達
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